第44話 最終話 スペル・マスター 物語を綴る者
「まったく……またこんなところで寝て……風邪ひいたらどうするの!?」
私の目の前で、スヤスヤ眠る男の子ひとり。
いくらここの冷暖房システムが完璧だからといってさすがに冬だ。
ソファーでのんきに眠る少年の姿に私は気が気じゃなかった。
ふう、自分より年下の少年……少年と同い年の弟がいる私としては、姉であるかのような腹立たしさと愛おしさが入り混じった感情になってしまう。
「ん?……あ、ああクレア……おはよう」
私が大声で騒ぐもんだから目が覚めたのだろう……少年は寝ぼけまなこで私を見つめた。
『くっ!……やっぱり綺麗な顔してるわ……この子』
私を見つめるその眼差しに思わず蕩けそうになるが負けてはいけない。
この子は私のライバルでもあるのだから……。
◆◇◆◇◆
ここはMWYS国立大学。
その大学内の自然エネルギー研究棟にある研究室。
その研究室に備え付けられたソファーにこの子……アーツは寝ている。
この大学MWYSの正式名称は「モンタナ・ワイオミング・イエローストーン国立大学」といい、世界最先端の自然科学について研究が進められている大学よ。
イエローストーン国立公園をはさむ2つの州のあいだに建てられたこの大学は、イエローストーン超火山の研究をはじめ、これからの地球の行く末を担う自然エネルギーについて日夜研究が進められているわ。
世界中から学生が集まるこの大学はひとつのマンモス校で、のどかだった2州はこの学校のおかげでちょっとしたシリコンバレーのように栄えたのが自慢みたいね。
私はこの大学の学生で現在は2年生。
カナダで生まれ育って、はじめてのひとり暮らしはこのアメリカ!
女の子のひとり暮らしに猛反対だった父を説得するのには骨が折れたわ。
でも1年が過ぎ、ようやくこの街と大学が自分の居場所だって思えるようになってくれて本当に来て正解だった。
……そして、この寝ぼけてる少年……アーツもなんと2年生……。
まったく、最高の頭脳を持ちながら、他の事には何の興味も示さないエキセントリック少年。
日本の学校を飛び出して、この大学を飛び級で合格……この子の頭脳もだけど、この学校の寛容さに呆れたわ。
教授に紹介されたときは冗談かと思ったけど、1年見てきてこの子の凄さは身に染みて分かっている。
それでも最初は自分の名前すらまともに自己紹介できなかったのだから、アーツは私をもっと敬うべきだわ……。
◆◇◆◇◆
ここに来た当初のアーツは、研究以外は本当に手のかかる少年だった。
たまたま同じような研究テーマだった私が面倒を見ることになり、それはもう苦労したのをよく覚えている。
たしか……ほんとの名前は『アツオ』だったと思う。
実はアーツは孤児で老夫婦に育てられてきたらしい。
老夫婦に引き取られた幼児のとき初めて話した言葉が『アツ、アツ……』だったそうで『アツオ』という名前になったそう。
日本人ってそんな理由で名前をつけるのかしら。
ともかく、大学で他の学生たちが『アツオ』と発音しづらかったから、私が『アーツ』と命名してあげたのよ、感謝しなさい。
その老夫婦も亡くなり、天涯孤独になったアーツは老夫婦の残した遺産でアメリカ留学を果たしたそうよ……このあたりの行動力は、今の姿を見ると未だに謎ね。
この大学に来て1年が経つから、アーツは現在14才で私の弟と同い年だ。
もうすぐ15才になるらしいけど、うちの弟とは中身も外見も全然違う。
もうちょっと弟っぽく私を頼って欲しいかな。
……まあ実際この美しい少年にお願いされたら断る自信はないのだけれど……。
とにかく少年に『変な虫』がつかないようにするのも私の役目だと思って頑張ってるわ。
と、私が過去に思いを馳せていると……また眠りだしたこの子……。
仕方がないので私のブランケットをかけてあげる。
お気に入りのブランケットだから汚さないでよね!
実は……アーツの匂いは嫌いじゃないから、私の部屋にはアーツ使用済みのブランケットコレクションがあるのだけれど……それは秘密です。
◆◇◆◇◆
「うーん、やっぱり人間の行動を変える改革を起こさないと難しいかな。善も悪も扱う人しだいで逆転するし……」
アーツがぶつぶつ呟いている。
「たしかにそうなんだけど……アーツ、君も普段の行動改革をしないとね」
髪は寝ぐせでボサボサ、白衣はいつ洗ったのか分からないシミだらけ、そんなアーツを見ながら私は言った。
『と、とりあえずそのシミだらけの白衣は私にちょうだい』
……などとは言い出せず、仕方なく髪をとくだけにしてあげる。
前にも言ったけど、私とアーツの研究テーマはよく似ている。
私の研究テーマは『地球の再生』彼は同じ内容ながら『人間行動や組織』など人の行動原理に深く踏み込んだ内容を組み合わせている。
ちなみに、私たちが研究してきた論文は、地球を再生する鍵になるのだけど……それはまた別の話ね。
「ところでアーツ、明後日が誕生日なんでしょ?何かするの?」
私はアーツの髪をときながら聞く。
「うん?なにもないよ……だって14才も15才も変わらないよ」
……このあたり大人ぶる生意気少年なところが可愛い。
思わず後ろから抱きしめそうになる。
「まあ私の方がだいぶ年上だし弟もいるから、困ったことがあればお姉さんに相談しなさい♡」
抱きしめるのは我慢して、お姉さんぶるだけにしておこう。
「な、なにもないよっ!」
なぜか赤くなるアーツ……か、可愛い!この可愛さは私の心のメモリに記録しておくわ!
◆◇◆◇◆
「ん?……この匂いは?」
次の日、また研究疲れでそのまま寝てしまっているアーツ。
そんな彼を起こしに来た私は、奇妙な匂いに顔をしかめた。
……あ、これってもしかして……弟の時と同じだ。
デジャブを感じ、その匂いが何なのか分かってしまった私は、少しパニクってしまう。
「う……うん?」
ワオ!これはマズい……騒がしい私にアーツが起きちゃった。
アーツは濡れている自分の股間に驚いてもぞもぞしている。
アーツと目が合う私。
アーツは恥ずかしそうに目に涙をためた。
「だ、大丈夫よ!私の弟と同じ!男の子の成長過程では当たり前のことよ!」
パニクりながらもお姉さんらしく、ちゃんと少年を導いてあげねば!
そう……アーツは初めて精通を迎えたのだ。
私は頼りなさげなアーツを連れ、研究室に近い私の部屋で介抱してあげた。
パ、パ、パ、パンツもちゃんと洗ってあげたわ……。
さすがに身体の方は自分で洗わせたけど……。
「僕……ごめん……ごめんよ……」
私に介抱されるがままだったアーツはいつもと違って素直で可愛い。
「あ……でもちょっとお尻が大きくて、ずり落ちそうかな……」
着替えがなく、私のパンティーとズボンをはいたアーツは落ち着かないようね。
「君!こんな綺麗でグラマーなお姉さんのパンティーがはけるなんてご褒美ものだぞ!感謝なさい♡」
「そうだね、ありがとうクレア」
照れ笑いを浮かべるアーツは、この短時間で少し成長したかのように見えた。
うっ!可愛すぎるし、これは絶対美しく育つわ!……やはり誰にも渡したくない。
そんな私の邪(よこしま)な気も知らず、白衣を羽織ったアーツはいとまを告げる。
「クレア、本当にありがとう……服は洗って返すね」
『ダメ!……洗わないで返してちょうだい!!!』
私は心の中で叫ぶのが精いっぱいだった……。
◆◇◆◇◆
今日はアーツの15才の誕生日、私は驚かせようと小さいながらも手作りケーキを用意して、研究室をこっそり覗く。
あれ?いつもならソファーで寝てるはずなのに……。
私は少し遠い場所にある、アーツの自室を訪れてみた。
……あいかわらず鍵もかかってないし……部屋は何日もアーツが使った形跡がなかった。
ほんとにあれで部屋の意味あるのかしら……。
私はそんなことを思いながらとりあえず研究室に戻ることにする。
……廊下の窓からは大きな満月と粉雪が少し舞う景色が美しく覗いている。
そういえば今夜は満月ね……たしかこの時期の満月は『ウルフムーン』っていうのよね。
アーツもオオカミになるお年頃になるのかしら?♡
などと、どうでもいいことを考えながら雪景色を眺める私の目に驚きの光景が映る。
『!!!』
あれは!?……なぜあんなところに!?
研究室に戻る廊下から見えたのは、月明かりが照らす研究棟の屋上。
その屋上に人影がひとつ見えた。
……遠目だったがあれはアーツに違いない!
私は何故か胸騒ぎを覚えながら、急いでアーツの元に走った!
『バタン!!!』
屋上の扉を思いきり開いた私の目の前に……雪の上に裸足で立つアーツがいた。
……アーツの背中からは、大きな満月が姿を見せていた……。
◆◇◆◇◆
夢遊病?
私はとっさにそう思った。
だってこの子、目を閉じてる……。
私がおそるおそるアーツに近づこうとしたとき……。
『ヒューーーッ!!!』
突然のつむじ風に粉雪が舞う!
「アーツ!!!」
私は心配で駆け寄ろうとし……その光景に立ち止まる。
アーツが薄っすらと目を開けていた。
……怖い……けれど……なにか……。
私はアーツの目を見て固まってしまう。
アーツの目から青い光が溢れ出していたからだ。
「……クレア?」
アーツはようやく私に気づいたようだ。
そう私を呼ぶアーツ……今度は彼の髪の毛から青い光が溢れはじめた……。
「……綺麗」
ヨレヨレの白衣を着たいつものアーツだけど、青い光をまとったその姿は、月の光に負けないくらい美しく輝き……私は見惚れてしまった。
科学の最先端でもあるこの大学の屋上で、こんな非科学的な現象を受け入れちゃってる私。
そんなパラドックス?……ジレンマかしら?に陥っている私にアーツは優しく声をかけてくる。
「今夜は満月だ……クレア。たしか俺が最初に世界を『超えた』ときもこんな満月だったよ」
ん?なに言ってるのアーツ?……しかも君!いま『俺』って言った?
自分のことを『俺』と言うアーツは……急に大人になったような魅力と、それでも少年の雰囲気を残した不思議な眼差しで私を見つめる。
「そうだクレア?俺たちが研究していた論文だけど、どうなってる?」
「え?あれなら第3稿を教授のデスクに出してあるけど……?」
「ふむ、第3稿ならほとんど決定稿だな……あの先生なら人間的にも大丈夫だな……よし!」
なにやらひとりでブツブツ言っていたアーツはひとりで納得してる。
「君はさっきから何を言ってるの?そんなことより部屋の戻るわよ!」
私はアーツが心配でつい大声を出した。
「ああ、そうだな……そろそろ行こう」
アーツがポツリと呟くそのなんでもない言葉に私は違和感を覚える。
「ア、アーツ?……」
私をずっと見つめていたアーツは、ふいにふわりと浮かび上がり、屋上の手すりに『トン』と裸足で立った。
「あ!あぶない!!!」
な!何やってるの!!!……私はアーツが浮かび上がった非科学的事実など考える暇もなく、彼の元へ駆ける!!!
『!!!!!』
私を見ながら後ろに倒れていくアーツ……その先は……地面だよ!
死なせない!!!
『ギュッ!!!』
必死で伸ばした私の手は……アーツをつかんだ!!!
……でも止められない!!!
私はアーツの手をつかんだまま2人で屋上から落ちる……。
……もう死んだのかな?……いつまでたっても落下の衝撃を感じない私は、おそるおそる目を開けた。
『!!!?』
落ち……てない?
私とアーツは落ちることはなく……むしろ空に昇り続けていた。
私は寒さも忘れ、どんどん近づいてくる月から目が離せなかった……。
「……まだ思い出さない?」
私を抱きしめるアーツは少年の姿なのに大人っぽく甘くささやく。
……私はドキドキで声も出せず、アーツに抱かれたまま……目の前に大きく近づく月の輝きに飲み込まれていった……。
「アーツ……わたし……わらわは……」
わらわはそこで気を失ったのじゃ。
◆◇◆◇◆
「ん……」
うー、頭が重い……いったい何があったのじゃ?
「気がついたか?」
ん?この声は……?
身体を起こしたわらわは、わらわの髪をかきあげて様子を見ている少年と目が合う。
『!!!』
何故か知らんがその少年の姿を見た瞬間、わらわの胸が熱くなり、ドキドキが止まらんようになってしまった……う、これはドキドキで死にそうじゃ。
「まだ混乱してるようだな……落ち着いてからゆっくり話そう」
そう優しく言ってくれる少年の声に包まれ……少し眠ってしまうのじゃった。
◆◇◆◇◆
目を覚ましたわらわに少年はゆっくりと話してくれた……。
話していくうちに、わらわも頭の靄が晴れ、全てを思い出すことができた。
「そうか、わらわたちはそなたの世界に転生しておったのか……それも違う時に」
「ああ、俺より女王の方が数年早く転生していたようだ……地球ではいろいろ助かったよ。ありがとう」
「ふん!そなたは世話のかかるお子様じゃったからな!仕方ないことじゃ!」
「それを言われると耳が痛いよ……俺も何というか……15才まではこの記憶が戻らなかったからな……」
どうやらアーツは精通を迎えたことで、記憶が戻りだし、満月の光で完全に思い出したらしいのじゃ……少年アーツは照れながらも話してくれた。
「……この世界でも15年近く月日が経っているようだ……」
彼は本を手に取り、その本から過ぎ去った年月を感じていたようだ。
「その本は?……」
「ああ、マインたち……ここに本を置いてくれていたようだ……これは!?」
大事そうに本をさすっていた彼は、とつぜん本を凝視しだした。
「天界山の上……最後に全員で愛しあった結果……4人は新しい宝玉(ジュエル)を生み出してくれていたのか……」
そう呟く彼が持つ本の背表紙に、わらわも知らぬ力を秘めたジュエルが嵌め込まれていた。
「試してみるか……」
そう言うと、彼は厳かな面持ちで本を胸元に掲げ……ほう、本が浮いておる。
『パーーーーーン!!!!!』
思いきり打ち鳴らす柏手が響き渡る。
「な、なんじゃこの精霊は!?」
わらわも知らぬ特異な精霊たちが大勢アーツの元にあつまっておる。
『!!!』
大勢の精霊をまとったアーツはブルーブラックの光につつまれ……気づいたときには青年に変化していた。
「これは『時間と空間』の精霊だ……俺の時間を操ってみた……他にもいろいろできそうだがまた今度だな」
初めて精霊界で出会った凛々しい姿に戻ったアーツは美しかった。
やっぱり君は誰にも渡さない!……わらわの中のクレアが小鼻をピクピクして叫んでおる。
「さて、そろそろ行かないとな」
おもむろに空に浮き上がるアーツ。
「じゃあ女王……クレアの方が呼びやすいかな。お前もどっちのキャラで行くか決めておけよ……あと少年時代の俺のことは内緒な……アデュー」
「ま、待て!!!……わらわもクレアもまだ……まだ純潔じゃぁーーー……」
わらわの叫び声は最後まで聞き届けられず……ポツンとひとり取り残された。
しかし、ほう……少年時代のアーツはわらわだけの記憶にある……ぐふふ♡
「おい!セイル聞いておったじゃろう?」
わらわはジト目で空を見上げる。
『ビクッ!』
セイルの驚く気配。
「アーツをものにする相談じゃ!これから作戦会議に入るぞ」
『ガア……』
セイルはため息をつきながらも女王の帰還を喜んでいた。
精霊界の夜はこうして更けていった。
◆◇◆◇◆
『ぷはぁーーー!!!』
ワシの酒臭い息が夜空を白く染める。
「もう!やめてください!そんなだからお孫さんに邪険にされるんです!」
青年だった魔法術士ももう中年……こんな俺に長年付き合ってくれるんだからありがたいことだ。
「お前この寒さだ!飲まねえでどうする?おまけに今日は満月祭だぜ!な~が屋も今夜だけは無礼講だからな!」
精霊消失が回避され世界が救われた『精霊革命』から15年……世界が救われた年に忽然と姿を消した『スペル・マスター』……それ以来、この北部地区では毎年この時期の満月の夜に『満月祭』が開催されるようになった。
世界救済を祝う祭りだが、同時にスペル・マスターを称える事でも知られ、参加者は思い思いのドミノマスクをつけ、祭を楽しんでいる。
ワシはすっかり爺さんになったので、さすがに恥ずかしくもあり、あのドミノマスクはつけてないが、ちゃんとここには持って来ている。
ワシの毎年の儀式みたいなもんだ。
「爺さんなのに心は少年ですね……」
テーブルに置かれたワシのドミノマスクをみて中年魔法術士が微笑む。
「ふん!」
ワシは恥ずかしくて酒をあおった。
◆◇◆◇◆
満月祭は夜通し続く。
この日だけは、北部地区は他のどの地区よりも明るく灯される。
朝まで灯る煌々とした明かりは満月祭の目印でもあり、数多くの観光客が訪れる。
「お!綺麗どころの登場だぜ!」
もう男としてはすっかり枯れたワシじゃが、な~が屋テラスにあらわれた女性たちにはドキリとさせられる。
な~が屋の女将をはじめ、幾人かの女性たち……皆ドミノマスクをつけているので素顔は分からないが、あの優雅な振舞いからも絶世の美女ぞろいだろうと噂されている。
しかも、どの女性もそうとうな武人らしく、手を出そうとして半殺しにされたものも多い。
ワシのような爺さんは眺めるだけで満足……酒がますます旨くなるってもんだ。
「彼女たちが出てきたとなると……そろそろですね!」
今度は中年魔法術士が少年のようにキラキラした目で声をあげる。
その言葉に応えるように、テラスに新しい人影が……魔法術協会会長だ。
来賓の魔法術協会会長は観光客や魔法術士たちの歓声に手を振った。
15年も経つとペストマスク姿にも皆は慣れ、今やペストマスクまで売られている。
こうなると北部地区全体はお祭り一色になり、夜空がますます明るく灯され祭の最高潮を迎える。
並んで良い席をとって正解だったぜ……この祭はワシの生き甲斐にもなっている。
「よし、飲みなおしだ!」
ワシと中年魔法術士が改めて乾杯をしようとグラスをかかげたとき……。
『ブツン、ブツン、ブツンブツンブツンブツン、ブチブチブチブチ……』
煌々と灯っていた北部地区の明かりが次々と消える。
あっという間にあたりは真っ暗になり、北部地区は暗闇に包まれた。
かろうじて……わずかながらテラス席のロウソクだけが灯っている。
「うわっ!何も見えねえ!……何かの演出か?」
いいや、違う!
『ガタガタッ!!!』
な~が屋の女将が薙刀を持ち出し、他の女性陣も戦闘隊形に入っている!
魔法術協会会長も杖を構えた。
「……な、なんだ?なにが起きてるんだ!?」
辺りが静まり返り……どれくらい時間がたったのだろう?
『パーーーーーン!!!』
突然の音にワシは空を見上げた。
「……光?」
街灯りとは違う、青き光が空を埋める。
その光は満月祭にも負けず劣らず北部地区を美しく彩り照らす。
しばし皆は空の美しさに見惚れた……。
『ガタガタッ……』
今度はなんだ!?……なにっ?な~が屋の女将や女性たち、魔法術協会会長まで膝をついて空を見上げている。
しかも……泣いている……わんわん泣いている。
ワシがそんな事態に固まっていると……耳元にささやき声がする。
「オヤジ……これ借りるぞ」
な!?ワシの宝物が消えてやがる!?
ワシは思わず立ち上がり、周りをキョロキョロ見回した。
『ゴゴゴゴゴ……』
重い音にワシはまた空を見上げる。
今度は青い稲妻が走り出す……そしてその中に……人影だと!?
『!!!!!』
「あ、あれは……あの方は……」
ワシも知らず知らず涙を流していた。
青き光を翼のように広げ、目元にはドミノマスクが煌めく。
皆が見守るなか……空に浮かぶ男は言い放つ。
「さあ!スペル・マスターの出番だ!」
【完】
スペル・マスター 異世界浮世話 召喚されたら本だった!? 三上 山歩 @mikamiyama
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