第302話:エピローグ②
「俺でも構わないだろうか?」
そう口にしたのは、冒険者ギルドでトップとされている人物だった。
「僕はアディエル・ファルファンク。Sランク冒険者だ」
「問題ありません。ちなみに、今使われている武器を拝見してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、もちろんだ」
アディエルがそう口にすると、集まった全員がざわついた。
このざわつきにカナタは首を傾げながらも、アディエルから直剣を受け取った。
「これは……すごい、ですね」
「あぁ。古代遺跡のダンジョンで手に入れた一等級武器、ファフニールだ」
剣身が燃え上がりそうなほどに紅蓮であり、持っているだけでもファフニールからの威圧感で手を離しそうになってしまう。
それでも手を離さなかったのは、カナタが錬金鍛冶師としての意識を高く持っていたからだろう。
「……これよりもすごい一等級品を作ることが、本当にできるのか?」
アディエルの言葉を聞いたカナタは、なるほどなと真剣な面持ちになる。
これはアディエルからの挑戦状だ。
お前は本当に古代の一等級品を超えるものが作れるのかと。
「……できます」
そしてカナタははっきりと『できる』と口にした。
そのことで再び王の間にはざわめきが広がっていく。
「……いいだろう。それでは、お願いしようか」
「分かりました。すみません、これらの素材を持ってきてくれますか?」
カナタは事前に話をしていた騎士に声を掛けると、早足で王の間を出ていく。
しばらくして戻ってくると、カナタが指示をした素材を持ってきてくれた。
「……はは、これはまた、素材からすごいものばかりだね」
素材を見たアディエルは、苦笑いを浮かべながらそう口にした。
「でも、これを全て使って一つの武器を作り出すのかい?」
「その通りです。それも、この場でね」
「……こ、この場で?」
困惑するアディエルを横目に、カナタは一度深呼吸を行う。
(アディエルに合わせた直剣。それも、ファフニールよりも強く、彼に見合う直剣だ)
頭の中でどのような武器にするべきかを作り出していく。
不思議なもので、魔王との一戦を終えてからというもの、相手を見ただけでどのような武器が最善なのかが分かるようになっていた。
これも錬金鍛冶師という、唯一無二な存在だからこそできる芸当なのか。
それともカナタ・ブレイドが錬金鍛冶を使い続けたからこその力なのか。
どちらにしても、これがカナタ・ブレイドの錬金鍛冶だということに変わりはなかった。
「……いくぞ、錬金鍛冶!」
集められた五つの素材から、強烈な光が放たれる。
全てが火属性の素材だったからなのか、光は紅蓮に染まっており、強烈な熱を感じるまでに至っている。
近くに立っていたアディエルですら右腕で顔を覆っていたが、カナタは大粒の汗を噴き出させながらも目を見開き、錬金鍛冶に集中している。
(錬金鍛冶のでき次第で、彼らが協力してくれるか否かが決まる! 絶対に、成功させてみせる!)
カナタの強い意志が、錬金鍛冶に乗り移る。
紅蓮の光は王の間を包み込み、この場にいる全員が、新たな一等級武器の完成を目の当たりにした。
「……できました、アディエルさん」
「……あ、あぁ」
汗を拭うのも忘れながら、カナタはニコリと微笑み、アディエルへ完成した直剣を手渡した。
「ファフニールと比べて、いかがでしょうか?」
「……陛下。この場で振ってみてもよろしいでしょうか?」
「構わん、試してみよ」
「はっ!」
本来であれば陛下の目の前で剣を振るうなどあり得ないが、アディエルの発言で協力を勝ち取れるかどうかが決まることをライアンも分かっている。
王の間で剣を振ることを許可し、アディエルの周りから人が消えた。
「……ふっ!」
一振り。
そのたったひと振りで、アディエルの表情が変わった。
「…………これは、すごいな」
「どうでしょうか、アディエルさん?」
改めてカナタが問い掛けると、アディエルは完成した直剣を床に置き、そしてカナタへ片膝をつき、首を垂れた。
「ア、アディエルさん!?」
「僕、アディエル・ファルファンクは、アールウェイ王国に忠誠を誓い、王国の剣になることをここに誓います」
アディエルの宣言を、この場にいる全員が耳にした。
冒険者は国に仕える者ではなく、自由な存在だ。
そんな冒険者のトップであるアディエルが、王国の剣になると宣言した。
「そこまでする必要はないぞ、アディエルよ」
「で、ですが……」
「これほどの剣を受け取るのだからと思っているのだろう?」
「……はい」
アディエルの思いを汲み取りながら、ライアンは言葉を続けていく。
「我とて皆の自由を奪うつもりは毛頭ない。もちろん、武器を手にするならば、その時には力を貸してもらうことになるだろう。そう、その時にだけ力を貸してくれればいいのだ」
「……陛下」
ライアンの言葉を受けて、一人、また一人と、片膝をつき、首を垂れる者が現れ始めた。
そして気づけば、この場に集まった全員が首を垂れていた。
「……す、すごい光景だな、これは」
「この光景を作り出したのはお前だぞ、カナタよ」
「ライル様」
いつの間にか隣に並び立っていたライルグッドの声に、カナタは驚きのまま返事をした。
「これから忙しくなるぞ。錬金鍛冶師のカナタよ」
「……望むところです!」
最後にカナタが見た先は、上目遣いでこちらを見ていたリッコだった。
彼女と目が合い、お互いに微笑み合う。
「……リッコと一緒なら、どんな困難も乗り越えて見せます。また魔王と戦うことになっても!」
こうしてカナタは、錬金鍛冶師としてその腕を存分に振るっていく。
そして、英雄と呼ばれることになる者の全てがカナタの作品を手に持つことになる未来が近づいているのだが、そのことを彼はまだ知らない。
魔王の完全復活が先か、それとも人類の魔王討伐が先か、はたまた完全復活した魔王すら倒す存在が――勇者が現れるのか。
そんな未来もいずれ、訪れることになるだろう。
錬金鍛冶師の生産無双 生産&複製で辺境から成り上がろうと思います 渡琉兎 @toguken
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