第301話:エピローグ①

「――皆の者、よく集まってくれた」


 そこへライアンが姿を現すと、その場にいた全員が片膝を床につけて首を垂れた。


「顔を上げよ。これから話すことは、皆の顔を見ながら伝えなければならないことだ」


 陛下に対して直答が許されるなど、緊急事態の時以外では考えられない。

 それが騎士であればまだしも、実際に陛下に仕えていない冒険者にまで直答が許されたとあっては、驚かないわけにはいかなかった。

 そしてライアンは先日起きたスタンピードを筆頭に、この場にいる者たちがスタンピード鎮圧に力を尽くしてくれたことを労っていく。


「だが、これで終わりではない」


 しかし、ライアンが終わりではないと言い切ったことで、集まった者たちからざわめきが広がっていく。


「魔獣に踏み荒らされた領地も多く、王都にも魔獣の魔の手が迫っていた。そして我らは、魔獣を先導する者と相まみえている」

「そ、その者は倒したのですか?」


 集まった者の一人が声をあげると、全員の視線がライアンに集まる。


「王都に迫った魔獣を先導していた者は倒している。しかし、それだけではなかったのだ」

「いったいこの地で何が起きているのですか!」


 声を荒らげる者もいたが、ライアンはそれを制するわけでもなく、冷静に言葉で説明していく。


「……この地に、魔王の復活が迫っている」


 実際にはすでに復活してしまっているのだが、完全復活を遂げているわけではなく、また混乱を避けるために言葉を濁していた。


「疑問に思う者もいるだろう。しかし、各地で起きているスタンピードは魔王の配下である魔族が引き起こしたものであり、王都へ迫った魔獣を先導していた者も魔族であったのだ」


 普段は静寂に包まれることが多い王の間も、今回ばかりはざわめきが段々と大きくなっていく。


「今回、そなたらを呼びだしたのは他でもない、各地でスタンピードを先導している魔族の討伐をしてもらいたいからだ」

「で、ですが陛下! 私たちにそのような大役、務まるのでしょうか?」

「そっちはそれでいいかもしれねぇが、俺は冒険者だ。依頼をするからには、それなりの報酬もあるんだろうなぁ?」

「国のためだぞ、命を懸けるのは当たり前だろう!」

「んだとこらあっ! それを決めるのはてめぇじゃねぇ、俺自身なんだよ!」


 ついには怒号まで飛び交うようになってしまい、この場を誰が治めるのかと傍観する者まで現れ始めている。

 だが、傍観者を含めた集まった全員が突如として膝をつくことになった。


「ぐおっ!?」

「な、なんだ、これはっ!!」

「……すまんな、皆の者。こうでもしないと、鎮まらないと思ってな」


 いつの間にか剣を抜いていたライアンが、重力魔法のグラビティホールを発動させていた。

 魔法はすぐに解除されたものの、ライアンの魔法に誰も抗うことができなかったことで、この場にいる全員が口を閉ざす。

 そこでライアンは、冒険者の口から報酬という言葉が飛び出したことをきっかけに、話を進めていく。


「我が持つこの大剣、グラビティアーサーは一等級である。そなたらには、これと同等の武具を報酬として渡すつもりだ」


 そうして告げられた言葉に、今度は全員が声を発することも忘れて驚愕していた。


「グラビティアーサーは出土品ではなく、新たに一人の職人が作り出したものである。その存在を一般へ公にすることはできないが、そなたらから希望を聞き、オーダーメイドで武具を作成させることを約束しよう」


 さらに、一等級の武具がオーダーメイドで手に入ると聞き、この場に集まった全員が驚きと共に、魔族の討伐を約束してくれた。


「それではここで、我のグラビティアーサーを作成した人物を紹介しようと思う」


 続けてライアンがそう口にすると、再び全員の視線が壇上に集まった。


(……ヤバいなぁ、緊張してきたぁ)


 グラビティアーサーを作った人物とはもちろん、カナタのことだ。

 そのカナタだが、現在はライアンが座っていた豪奢な椅子の後ろに隠れて話を聞いている。

 集まった顔ぶれ、人数に驚き、緊張をするのは当然なのだが、それ以外の感情も湧き上がってきている。


(……これだけの数の武具を一等級で作るのか……はは、腕が鳴るじゃないか!)


 この世界で唯一の錬金鍛冶師であるカナタは、やる気に満ち溢れた表情を浮かべながら目をぎらつかせていた。


「紹介しよう! 過去、勇者の剣を作り出した一族であり、先代の力を継承した人物――カナタ・ブレイドである!」


 カナタの名前が呼びあげられると、彼を知らない人物たちがざわめき始める。

 そんな中、カナタは椅子の後ろから姿を見せると、会場中の視線を一身に集めた。


「……ご紹介に預かりました、カナタ・ブレイドです。まずは皆さんに、俺の力をお見せしたいと思います」


 どれだけ言葉を尽くしたところで、鍛冶の腕を見せることができなければ意味がないとカナタは考えていた。

 故に、集まった皆の前でカナタの実力を見てもらえれば、納得してもらえるとも考えた。

 カナタは鍛冶師であり、錬金鍛冶師であり、職人だ。

 職人ならば、自らの作品をもってして答えだと示さなければならない。

 そして、錬金鍛冶師であるカナタなら、鍛冶場のない王の間であっても、その実力を皆に見せつけることが可能だ。


「どなたか、代表して前に出てきてくれませんでしょうか?」


 カナタがそう口にすると、集まった中でも一番先頭に立っていた人物が手をあげた。

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