第300話:謁見と報告

 王の間へ足を踏み入れたカナタたちは、ライアンが腰掛ける玉座の前で片膝をつこうとした。


「報告を最優先にしてくれ、カナタよ」

「……かしこまりました」


 ライアンにそう言われ、最初こそ『本当にいいのか?』と思ったカナタだが、内容が魔王についてということもあり、すぐに気持ちを切り替えた。

 そこからカナタとリッコは、ライルグッドへ報告した内容をより詳しく、ライアンへ伝えていく。

 スピルド男爵の悪行を聞いて渋面になったのを見ると、ライルグッドと同じで報告を受けていたのだろう。


「すぐに対処させるとしよう」


 即答でそう約束してくれた。

 だが、本題はスピルド男爵ではない。いや、国民のためを思えばこちらも本題なのだが、ことは一領地の話ではなくなってきてしまっている。


「また、スピルド男爵領にて、魔王が復活いたしました」

「…………な、なんだと?」


 ライルグッドとまったく同じ反応を見せたライアンは、その視線をカナタの隣に立っていたそのライルグッドへ向けた。


「私も先ほど、カナタたちから報告を受けました。どうやらスピルド男爵の部下が隠し持っていたものが、魔王復活に起因したようです」

「……なるほど。対処などという言葉では甘かったか。我、ライルグッド・アールウェイの名のもとに、裁きを下す必要があるな」


 言葉だけを聞くと、冷静さを保っているようにも聞こえたカナタだったが、ライアンの拳が震えていることに気づくと、感情を表に出していないだけで、相当に怒り狂っているのがすぐに分かった。


「復活したばかりの魔王は本来の力を有しておらず、可能であればと一戦交えてみたのですが、逃げられてしまいました」

「本来の力を発揮できなかった、相手は魔王だ。よく生きて戻ってくれた」

「現地で強力な仲間と出会い、なんとかといった感じでしたが」


 カナタたちへ労いの声を掛けると、カナタは小さく微笑みながら答えた。


「しかし、陛下。魔王が復活したということは、魔獣の動きも活発化するでしょう。魔人たちも同様です」

「そうだな。我らも急ぎ、戦力を充実させる必要がある。勇者の剣を作るのはもちろんだがな」


 ライルグッドの言葉にライアンが答えているが、それを実行に移すのはカナタである。

 彼の負担があまりにも大きくなってしまう現状、どうしてもリッコは口を挟みたくなってしまう。


「やります。いや、やらせてください」


 しかし、リッコが口を開く前に、カナタ自らがやると宣言した。


「……いいの、カナタ君?」


 すぐにリッコが確認を取ると、カナタは力強く頷く。


「俺にできることを、全力でやり切りたいんだ。それに、そうしなければ守り切れないものもあるからな」

「守り切れないもの?」


 リッコが聞き返すと、カナタの右手が自然と彼女の頭を撫でていた。


「……え?」

「俺はリッコ、君を守りたい。君がいる国を守りたいんだ」

「…………えっと、その……えぇっ!?」


 まさか人前で、それも陛下と殿下という、国そのものと言っていい相手の前で、国のためではなく、一人の女性のために戦いたいと言っているのだ。


「不敬だと、本来であれば言ってやるんだがな」


 そう口にしたライルグッドだが、言葉とは裏腹に彼は笑みを浮かべていた。


「素材はこちらで全て準備しよう。勇者の剣には劣るだろうが、英雄が手にするべき剣と呼べるものを頼むぞ、カナタ」

「はい!」


 それからのカナタは目まぐるしいほどの忙しさに休む暇がなくなっていった。

 しかし、カナタが文句を言うことはなく、むしろ積極的に忙しさを求めているようにも見えた。

 周りから見れば、カナタの行動はあまりにも急を要しており、彼が倒れてしまうのではないかと心配されていた。

 そんなカナタの隣には、常にリッコがおり、彼を支え続けていた。

 だからこそカナタは頑張れた。そうでなければ、周りの心配同様に倒れていたことだろう。

 カナタにとっても、そして国にとっても、リッコという存在は大きなピースになっていた。


 そして――大陸中に散らばっていた猛者と呼ばれる者たちが、王都アルゼリオスの王城、それも王の間に集結していた。

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