第299話:急展開
それからの行動は早かった。
「この手紙をロックとゲインに渡してちょうだい」
「分かった。民たちのことが落ち着いたら、俺もすぐに王都へ向かおう」
「ゴランさんが駆けつけてくれたら心強いです。よろしくお願いします」
カナタとリッコは大急ぎで王都へ戻っていき、ゴランは残された者たちを引き連れてワーグスタッド領へ向かう。
リッコはスピルド領で起きたことを事細かに記した手紙をゴランに託す。
独自で支援を行っていたカナタたちの現状を知れば、スレイグが動いてくれると信じての判断だ。
もちろん、ライルにも直接スピルド領の現状を報告するつもりで、こうなるとスピルド男爵は終わったも同然だろう。
「まあ、判断は陛下が行うから、俺たちじゃ分からないけどな」
「あら、そんなことはないんじゃないかしら?」
「どうしてだ?」
現在のカナタは、リッコが駆る馬に二人乗りをしている。
走らせながらの会話なのだが、自信満々なリッコの発言にカナタは首を傾げてしまう。
「だってカナタ君は、王都のスタンピードを解決した英雄の一人なんだからね」
「王都のスタンピードは、俺だけじゃなくて陛下を始め、騎士団や多くの人の助けがあって初めて解決できたんだ。俺のことを英雄なんて言うなら、あの場で戦ってくれた全員が英雄だよ」
カナタは本気でそう口にしていることをリッコは理解している。
それでもリッコは、王都のスタンピードを解決に導いた一番の功労者はカナタであり、そんな彼が謙虚な姿勢を貫いてくれていることが、婚約者として嬉しかった。
「カナタ君は、やっぱりカナタ君だね」
「どういうことだ?」
「ううん、こっちの話だよ!」
それからカナタとリッコは、元ブレイド伯爵領へと立ち寄り馬を乗り換えると、再び王都へと駆けされていく。
休む間もなく出発した二人は、スピルド領から王都までを、僅か二日間で駆け抜けていった。
「カ、カナタ様!? いったいどうなさったのですか!!」
カナタに気づいたのは、王都のスタンピードで共に戦った騎士の一人だった。
「至急ご報告しなければならないことができました。ライルグッド殿下にお目通りできるでしょうか!」
「かしこまりました! すぐに確認を――」
「その必要はない」
騎士が城内へ駆け出そうとしたところで、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ライル様!」
「どうしてここに?」
驚いたのは騎士だけではなく、カナタとリッコも同じだった。
「カナタたちが向かってきていると、報告があったからな。急いで迎えに来たのだ。話は移動しながら聞こう」
二人が戻ってきたことで、何か重要な報告があると判断したライルグッドは、時間を無駄にしないためにもと歩きながら話を聞くことにした。
「単刀直入に申し上げます。魔王が復活しました」
「……な、なんだと?」
しかし、魔王復活の凶報が伝えられると、ライルグッドの足が思わず止まる。
「ですが、まだ完全な復活ではありませんでした」
「倒し切りたかったんだけど、逃がしちゃったのよね」
「……まさか、一戦交えたのか? 魔王と?」
「「はい」」
魔王復活の凶報も驚きだが、すでに一戦交えており、それを撃退していると聞いたライルグッドは、何をどう驚いていいのか分からず、最終的には呆れ顔を浮かべた。
「……何をやっているのだ?」
「いやまあ、仰る通りです」
「別に私たちから戦いに行っているんじゃないのよ? 巻き込まれたんだからね、スピルド領で!」
やや憤った感じでリッコが口を開くと、スピルド領と聞いたライルグッドの表情が険しいものになった。
「またスピルド領か」
「また、ですか?」
「あぁ。支援に向かわせた他の者からも横暴な態度で報告を受けている。まったく、民はあ奴の私物ではないのだぞ?」
拳を握りしめ、怒りを露わにしているライルグッド。
そんなスピルド男爵が管理している領地で魔王が復活したとなれば、ライルグッドが怒り狂うのも仕方がないだろう。
「詳しい話は陛下にも聞いてもらった方が早そうだ。そのまま謁見するぞ、いいな?」
「「はい!」」
あまりにも激動な展開に、カナタたちは今一度気を引き締め直した。
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