第193話 世界樹に遊びに行こう
一度起きたスノウだったが、大泣きしてすっきりしたのか落ち着いた様子。
レイナのことも改めて説明すると、本人的に納得しているらしく、ティルテュが遊び相手になると機嫌も良くなった。
夜は疲れたからかぐっすり寝てしまったので、ティルテュとスノウの二人をベッドに運び、今後のことについて考える。
「世界樹か……」
たしかに大精霊様たちにとって世界樹は大切なもので、スノウも興味を持っていそうだ。
なによりレイナがいない今、料理関係でスノウを満足させてあげられないのが辛い。
「今日もすっごい微妙そうな顔してたもんなぁ……」
世界樹に行けばスノウが好きな蜜も舐められるし、ミリエル様が言うにはそちらの方が魔力の安定に繋がったりと良いこと尽くめだそうだ。
この間の件もあってハイエルフの人たちも大変だろうし、遊びに行くのは遠慮してたけど……。
――むしろ来てくれた方がみんな喜ぶよー! 世界樹だって喜ぶよー!
とのことらしい。
「ただ、今はエディンバラさんの記憶の件もあるしなぁ」
あの人なら多分、スノウのことを気遣って構わないと言ってくれるだろうけど、先に約束をしていたのは彼女の方だ。
そこは記憶喪失を解決させる方を優先しないと。
それに、記憶が戻らないとレイナもせっかく頑張ってるのに意味がなくなっちゃうし。
「まあ一度、相談してみよう」
そして翌日。
マーリンさんのところに泊まっていたエディンバラさんが家に来たので世界樹の件を話してみると――。
「もちろんいいぞ」
「でも記憶のことが……」
「以前ハイエルフの里に入ったとき、懐かしい気持ちになった。母曰く私は普通のエルフだったらしいが、それでもあそこには私に関わるなにかがあるのかもしれないからな」
「あ……」
そっか、そういえばそうだったっけ。
ヴィーさんの眷属の吸血鬼だってことしか頭になかったけど、たしかに彼女は元々エルフ。
眷属になったことで寿命も延びて、今いるハイエルフの人たちよりも長く生きてるみたいだけど、あそこならなにか手掛かりがあるかもしれない。
「あー……良かったぁ」
「ん? なにがだ?」
「いや、どういう風に話そうかと思ってたんですけどね」
エディンバラさんにとっても関係のある話で良かった、と伝えると彼女はいつも通り柔らかく笑う。
「私のことなら、父が遠慮する必要などないぞ」
「そういうわけにはいかないですよ。いつもスノウのこと見てくれてますし、俺もお世話になってますから」
「世話なら私もなっているからな。まあいい、それならさっそく向かうのか?」
「そうですね。もうスノウも行く気満々みたいですし」
お気に入りのリュックには玩具とお菓子がパンパンに入っていて、ルナとカティマに似た人形がくっついていた。
レイナが作ってあげた人形で、他のシリーズもたくさんある。
人形は結構大きく、リュックに付けられるのは二つまでだ。ティルテュの人形が付いていないのは一緒に行くからだろう。
「むむむ……我も行かないと駄目か?」
「だめ! いっしょ!」
「むぅ……」
すでにティルティとハイエルフのわだかまりは解決したとはいえ、世界樹に行くことにまだ気後れがあるらしい。
まあスノウに勝てないのはいつも通りだから、付いてくるだろう。
「あ、他の人たちも呼びましょうか?」
「そうだな。マーリンたちも誘ってみよう」
最近みんな独自のコミュニティを作っていて忙しそうだけど、どうだろうか?
とりあえずスノウたちには準備を進めて貰い、ゼロスのところに行くと――。
「悪い。今日はグラムたちと修業する予定でよ」
昨日も一人で鍛錬していて、今日もまた修業。
そういえば昨日アークとも話題になったけど、ゼロスはもう一人でこの島を歩けるようになってるし、ずいぶんと強くなったんだろう。
「最近精が出るね」
「レイナが強くなろうとしてんだろ? あいつに負けたら俺が第七位になっちまう!」
「そういうの気にしてるんだ。ちょっと意外かも」
どちらかと言えば自分を高めることにだけ集中しているタイプで、外野の数字は気にしないと思っていた。
「ま、目安みたいなもんだが……男ならプライドなくしちゃお終いだからな」
この島の生活を楽しんでいるのがわかるように笑う。
「このままゼフィールも倒せるようになってやるぜ!」
「そっか、頑張ってね」
ゼフィールさんはもう魔術を極めることより、温泉を極めようと毎日動いているし、マーリンさんも美味しいお茶を作ろうと色んな所に行っている。
セティさんはゼロスと同じく強くなりたいみたいで、アークと修業をしているし……。
「みんなこの島でやりたいことが見つかってるみたいで良かった」
「……」
ゼロスの家から出てそう呟くと、一人フラッとしているカーラさんが見えた。
俺もあの人とあんまり絡まないけど、どうにもちょっと浮いているようにも見える。
なにかやりたいこととかあれば、協力するんだけど……。
向こうも俺のことはあんまり信用していないのか、滅多に近寄ってこないし……。
「エディンバラさんのことが解決したら、聞いてみようかな」
この島は大変なことも多いけど、同時に楽しいこともたくさんある。
「きっと彼女にとって楽しいことも見つかるはずだよね」
森に消えて行く彼女を見送り家に戻ったあと――。
「あ、世界樹に行くのを誘えば良かった」
結局、みんなそれぞれ予定があるからこの日は四人で出かけることになった。
ティルテュがルナを誘いに行ったのだが――。
「まさかルナも来れないとはなぁ」
「クルルたちが怪我しちゃったみたいだし、仕方ないよ」
家族にしている二匹のブラッディウルフ。
最近ヤンチャになってきたらしく、森を二匹で走り回って狩りをしているのだが、二匹揃ってウサギに負けたそうだ。
幸い逃げることには成功したらしいけど、結構大きめの怪我をしたらしく看病に忙しいらしい。
「くるるとがるる、大丈夫かなぁ……」
この島の魔物たちは賢く、二匹もよく遊びに来る。
それこそルナがいないときでも勝手に来るくらいで、スノウとも仲が良かったから心配そうだ。
「また今度、お見舞いにいかないとね」
「……うん」
「まあせっかくのピクニックだ! 暗い顔してないで楽しむぞ!」
「わっ⁉」
トボトボと歩いていたスノウの手をティルテュが握ると、そのまま走り出す。
引っ張られたスノウは最初驚いた顔をしていたが、段々と楽しくなったのか笑い声が聞こえてきた。
「仲の良いな」
「そうですね。見ていて気持ちいいくらいです」
レイナとティルテュの二人と結婚すると決めたとき、どういう風に接すればいいか悩んだときがあったけど……。
あれを見れば、いつも通りの俺たちでいいんだなと思うようになった。
「しかし少し走らないと、このまま置いて行かれそうだぞ」
「あっ!」
見れば二人はかなりの早さで走っている。
見守っていた俺たちは、どんどんと前に行ってしまう二人を追いかけるように駆けだした。
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転生したら最強種たちが住まう島でした。この島でスローライフを楽しみます 平成オワリ @heisei007
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