その剣の名はエクスカリバー

 2020年の年末、学校から帰ってきたところをセーラー服のまま私は異世界に召喚された。魔王を倒す素質のある「勇者」として呼ばれた私の前に、28年前に召喚された「7代前の勇者」が現れる。1992年までの日本しか知らないそのオジサンが、私の教育係になるらしい。以上、前回のあらすじ終了!



 あれから女神さまの森を出た私達は、馬車に揺られて半日後、ようやく王都に着いたところだった。聞くと、4年ぶりの「勇者召喚」に国民は沸き立っているらしい。数時間かけてパレードのように王都中をまわり、国民に私の姿を見せるのだとか。


「オジサン、鏡ない? 前髪だけでも直したいんだけど!」

「どーせみんな遠くから見てるだけだから、そんな細かいとこ見えねえよ。」

「そういう細かいとこが重要なの!」


 しかし、無精ひげと埃まみれのこのオジサンが鏡なんて持っているワケもなかった。


「じゃあ、そのでっかい剣を抜いてよ。多分それなら反射して映るんじゃない?」

「おまっ……これは聖地から引き抜いてきた伝説の聖剣エクスカリバーだぞ!? 手鏡みたいに使うんじゃねえよ。」

「イイから、イイから。」


 そう言って、茶色い鞘からムリヤリ抜かせたその聖剣……? は、まるでロボットアニメに出てくる武器のようにガチャガチャと変形して妙な形に収まった。鉄パイプのようなまっすぐな金属の棒に、銀色に輝く刃が括りつけられているような。


「これが……聖剣……?」


 剣というより、異常に刃が縦長な斧みたいだと思った。

 いや……そもそもだ。聞き流していたけど、気になることがある。


「エクスカリバーがあるってことは、ここってイギリスなの?」

「は? なんで?」

「エクスカリバーってアーサー王の伝説に出てくる剣でしょ? ということは、この世界にアーサー王がいたってことじゃん。」


 “異世界”と言われてここに来たけど、そもそも“異世界”とは何なのだろう。

 もしこの世界にもアーサー王の伝説があるとしたら、私が住んでいたあの世界とつながっているとか、別の未来に進んだパラレルワールドとかの可能性がある。


「あー、いや、そのエクスカリバーって名前は俺が付けたんだよ。」


 ………


 …………



「はぁーーーっ!!?????」

「いや、だってよ。名前ないと困るだろ。ちょっとソレ取ってーって言う時に、相手に伝わらねーし。」

「いやいやいやいやいやいや! アンタ、さっき“伝説の聖剣”って言ってたじゃん!」

「伝説なのは間違いねーよ。聖地に刺さってたのを、俺が引き抜いたんだし。でも、名前がなかったから俺が付けた。」

「……ちなみに、どうしてエクスカリバーなの?」

「『ファイナルファンタジー』とかに出てくるし。」


 ゲームに出てきた剣の名前を、勝手に付けるなーーーーーー!



 そうは言いつつ、そのエクスカリバーの銀色の刃はキレイに磨かれていたので、そこに映る姿を観ながら私は自分の前髪を直したのだった。


 ◇


 ホロの付いていない馬車の上に立ち、私達は王都の石畳をゆっくりと進む。


「勇者さま! あぁ、勇者さまだ!」

「今度の勇者さまは、女性なのか!」

「ママーッ、あたらしいゆーしゃさま……キレイだねー」


 街中の人が、そこらの家の窓から顔を出して歓声をあげる。

 紙吹雪が舞って、国中から歓迎されているのがうれしくて、私は笑顔で手を振る。まだ何も成し遂げていないのに、こんなにみんなからチヤホヤされるだなんてこっちの世界に来てよかったなーなんて考えていた。


 ふと、私の横に胡坐をかいて座っていたオジサンが何かに気づいたみたいで、私にそっと耳打ちをした。


「今から一人、男が合流するが……コイツは仲間だ。慌てなくてイイからな。」

「は、はぁ……」


 合流……ということは、この馬車に誰か乗りこんでくるのかと思ったら。私達が進む石畳の両脇に並んでいる民家の屋根を音もなく走る影が―――サササッと走り、ピョーンと飛び跳ねて、スタッと私達の馬車の上に着地した。


「クリフ様! クリフ様だ!」

「相変わらずの身のこなし!」


 街の人たちのリアクションを見るに、この人もこの街の有名人みたいだ。少し色黒な肌と、絵の具でそのまま着色したような赤い髪の毛、その髪の上から青いバンダナを巻いて、更にベルトのようなものをその上から締めている妙な出で立ちな男だった。背は私より少し高いくらいで、体は細く、かなり猫背気味で、目つきが悪い。


「紹介するよ、クリフ。コイツが新しい勇者の小空こそらだ。」

「驚いたぜ、旦那……今度の勇者は女なのか? こんなんで魔王軍と戦えるのか?」


 “女”というだけでそんなことを言われる先時代的な物言いにカチンと来たけど、オジサンが「俺は結構やると思うぜ」と言ってくれたので、よしとするか。


「んで、小空。コイツが俺の仲間の一人、クリフだ。」

「どうも、よろしくお願いします。」

「うっす。」


 パレードのように道を進みながら、私達は挨拶をする。


「戦闘はからっきしだが、耳と目がムチャクチャ良いんで敵がどっちにどれだけいるのかを見てもらったり、身軽なんで偵察に行ってもらったり、鍵開けや罠の解除なんかをしてもらうことが多いな。」

「あー、盗賊ポジションなのね。」


 ダンジョンに潜るのなら一人は必要な役回りだ―――

 と思って、私がそう言った途端にオジサンもクリフも目を見開いて固まった。


「おっ……オイ! 何だ! なんなんだ、この女! 失礼にも程があるだろっ!」

「えっ……何……?」

「小空、オマエ……言って良いことと悪いことがあるぞ。」


 どうして二人が突然怒り出したのか私には分からなかった。


「オレは確かに貧民街の生まれだが、人の道に逸れるようなことはしてこなかった! 盗みも強請りゆすりもしたことがねえ……なのに、いきなりオレを泥棒呼ばわりしやがって!」

「え……」


 泥棒……


 そんな話したっけ……



 ………


 ………あっ



「ちがうちがうちがうちがう! ちがうの! 私が言いたかったのは、“職業”の盗賊って意味で……」

「また言いやがった! この野郎! 女だろうが、次期勇者だろうが、許さねえぞ!」

「えっと……ちがうの。私達の世界では、そういう役割をする人を“盗賊”って言うことが多くて―――」

「そうなのかい、旦那?」

「いや、初めて聞いた。」


 なんだと、このオッサン。

 さっき「エクスカリバー」って言ってたからゲーム好きかと思ったんだけど。


「いやいやいやいや、 『ドラクエ』とかにもあったでしょ、盗賊って職業。」

「『ドラクエ』の職業に盗賊なんてねえよ。」

「あれ……オジサン、ひょっとして『FF』派? 『ドラクエIII』やってない?」

「やってないワケねえだろ。『ドラクエ』は1作目から5作目まで全部クリアしてるわ。」

「『ドラクエIII』の職業に盗賊ってあるじゃない?」

「ねえよ。勇者、戦士、魔法使い、僧侶、武闘家、商人、遊び人、そして賢者の8つだろ。オマエ、ちゃんとクリフに謝れよ……」


 ちょっと待って、ちょっと待って。

 ウチは父親がゲームとかアニメとか好きだから、『ドラクエ』も『FF』もナンバリングタイトルは義務教育中に全部プレイさせられたんだけど……『ドラクエIII』に“盗賊”あったよ!


 なんでなんでなんでなんで!?

 どうして私が悪いことになってるの!?


「そうだ! 『FF』! 1992年っていうと、『FF』は何作目まで出てるの?」

「5作目まで出てたぞ。俺、発売日に買いに行ったからな。」

「5作目って誰が出てくるヤツだっけ……」

「レナ、ガラフ、ファリスとか。」

「あー、そっか。途中で○○が死ぬヤツだ。」

「えっ」


「えっ?」



「ちょっ!!!! おまっ、ネタバレすんなよ!!!! アイツ死ぬの!?」

「え? 『FFV』やってるんでしょ?」

「やってたんだけど、飛空艇を手に入れたあたりでこっちの世界に来たからクリアしてねえんだよ。魔王を倒して、元の世界に戻ったら続きを遊ぼうと楽しみにしてたのに……」


 シュンとしてしまうオジサン。


「いやいやいやいや、28年も経っているんだよ!? ネタバレしてもしょうがないでしょ! 私が悪いの? ね、ホント……元気出して……ゴメン! ゴメンって!!」


 人類最強の勇者も、楽しみにしていたゲームのネタバレをされると大ダメージを受けることが分かった。


 ◇


 パレードは進む。

 だが、盗賊と呼ばれてずっと不機嫌なクリフと、28年間楽しみにしていたゲームのネタバレをされて落ち込んでいるオジサンにはさまれて、私は引きつった笑顔を貼りつけたまま街の人に手を振っていた。


「オジサン、いい加減に元気出してよ。」

「そうだな……28年も経っているんだもんな。『ドラクエ』も『FF』も続編がめっちゃ出ているんだろ? 帰ったら、それ全部遊んでやるぜ!」


 そうだ、その意気だ。

 取らぬ狸のなんとやらだけど、元気が戻ってくれたのなら良かった。



「で、今は『FF』って何作目まで出てるんだ?」

「ん-っと……最新作は『15』だね。『16』も発表されたけど、いつ出るのかは分かんない。」

「『15』!? 28年も経っているのに、10作しか出ていないのか??」


 いや、そんなもんでしょと思ったのだけど、どうもオジサンが日本にいたころのゲームは「1年に1本」くらいのペースで続編が出るのが当たり前だったらしい。


「じゃあ、『ドラクエ』は何作まで出てたんだ?」

「『11』かな……」

「28年間で6本しか出てない、だと!? 4~5年に1本ペースじゃねえか! そんなんでエニックスは大丈夫なのか?」

「あ、そうだ……昔は別の会社だったみたいだけど、なのでスクウェアとエニックスは合併してスクウェア・エニックスになったよ。」


 ………


 …………


 ……………


「はぁああああああああ!?」


 街の人が「どうしたどした」と怪訝な顔をするくらいに、大きな声を出してオジサンは驚いた。


「マジかよ、ショックだぜ……『FF』のスクウェアと『ドラクエ』のエニックスが一つの会社になるとは。じゃあ、『ドラゴンファンタジー』みたいなゲームが出たのか?」

「少なくとも公式には出てないね……」

「じゃあ、『FF』のキャラと『ドラクエ』のキャラが競演したりはしていないのか?」

「確か、『いただきストリート』では共演してたと思う。」

「なんでボードゲームで??? RPGじゃなくて??? いや、そもそも『いたスト』ってアスキーのゲームじゃなかったか?」

「それは知らないけど……」


 そこでオジサンは無精ひげを撫でながら考え込んだ。


「ひょっとして、スクウェアとエニックス以外にも、俺の知っているゲーム会社って合併したりしているのか?」

「あー、それはあるかも。」

「カプコンは?」

「カプコンはそのままだね。」

「光栄は?」

「光栄はテクモといっしょになってコーエーテクモだね。あと、ガストも子会社にしてたと思う。」

「ガストって、あのガストか!? どういうつながりなんだ……?」


 オジサンはものすごく意外そうな顔をしていた。


「ナムコは?」

「ナムコはバンダイナムコになった。」

「ケムコは?」

「ケムコはそのまま、だったかな……?」

「ナムコが合併しているのに、ケムコはそのままなのか!? じゃあ、コナミは?」

「コナミはハドソンを子会社にして、最近出した『桃鉄』が大ヒットしてたね。」

「マジか……ということは、『桃太郎』シリーズに『ゴエモン』が登場したりしているのか。」


 多分出てないけど、私は黙っておいた。


「テクノスジャパンは?」

「テクノスジャパンはもうない。くにおくんは別の会社から出てるね。」

「データイーストは?」

「データイーストももうないね。『メタルマックス』とかは別の会社から出ている。」


 マジかよーと天を仰ぐオジサン。


「今のところ無傷なのはカプコンとケムコくらいなのか? カプコンと言えば、やっぱ『ストリートファイター』の大ヒットが大きいのか。」

「あー、それもあるけどプレステで『バイオハザード』とか『モンスターハンター』とか大ヒットしたからね。」

「プレステ……?」


 あ、そうか。

 1992年だとプレステってまだ出ていないのか、と思って説明しようとするとオジサンがまた大きな声を出した。


「プレステってひょっとしてソニーのプレイステーションのことか!? 噂レベルのものだと思ってたが、本当に発売されたのか!」

「“本当に発売”も何も、世界中で大ヒットしたよ。」

「そうなのか、やっぱり時代はCD-ROMだったかー。」

「らしいね。おかげで、『FF』とかもプレステで出たってお父さん言ってたし。」


「そうか、じゃあスーパーファミコンはますます安泰だったんだな。」


「は?」

「え?」

「プレステが出ると、どうしてスーパーファミコンが安泰なの?」

「何言ってんだオマエ。プレイステーションってスーファミの周辺機器だろ?」

「はぁっ!!!????」


 どうもオジサンの言うには、任天堂とソニーが共同で「スーパーファミコン用のCD-ROMアダプタ」を開発していて、その名前が「プレイステーション」だったのだとか。


「いやいやいやいや! ないから! スクウェアとエニックスが合併するのの比じゃないから。任天堂とソニー、めっちゃ仲悪いからね。」

「そ、そうなのか……確かに俺もどっかの雑誌で読んだだけだから、記憶が曖昧だが……」


 そこでオジサンがハッと気が付いたみたいだった。


「そうだ! 任天堂は? 任天堂はどうなんだ? どこかと合併したりしたのか?」

「任天堂は絶好調だよ。2020年も『どうぶつの森』が600万本くらい売れてたし。」

「600万!? 何なんだ、その化け物みたいなゲームは……やっぱりRPGなのか?」

「なんだろう……どうぶつ達と気ままに、島で暮らす……みたいなゲーム?」

「ちっとも面白そうじゃねえな!」


 失礼な人だ、と思った。

 これだから老害は。


「あとは、そうだね……ウチのお父さんは『スーパーマリオ35』とか、むっちゃ遊んでたよ。」

「『スーパーマリオ35』!? 『FF』は15作、『ドラクエ』は11作しか出ていないのに、『マリオ』は35作も出ているのか!」


 え、いや……そうじゃないと言おうと思ったのだけど、『マリオ』シリーズが本当に35作も出ていないという自信がなくて即答できなかった。



 えっと……


1.ドンキーコング

2.ドンキーコングJR.

3.マリオブラザーズ

4.スーパーマリオブラザーズ

5.スーパーマリオブラザーズ2

6.スーパーマリオブラザーズ3

7.帰ってきたマリオブラザーズ

8.スーパーマリオランド

9.スーパーマリオUSA

10.スーパーマリオランド2

11.スーパーマリオコレクション

12.スーパーマリオ64

13.スーパーマリオブラザーズデラックス

14.スーパーマリオアドバンス

15.スーパーマリオアドバンス2

16.スーパーマリオサンシャイン

17.スーパーマリオアドバンス3

18.スーパーマリオアドバンス4

19.スーパーマリオ64DS

20.New スーパーマリオブラザーズ

21.スーパーマリオギャラクシー

22.New スーパーマリオブラザーズ Wii

23.スーパーマリオギャラクシー2

24.スーパーマリオ 3Dランド

25.New スーパーマリオブラザーズ 2

26.New スーパーマリオブラザーズ U

27.New スーパールイージ U

28.スーパーマリオ 3Dワールド

29.スーパーマリオメーカー

30.スーパーマリオメーカー for ニンテンドー3DS

31.スーパーマリオ ラン

32.スーパーマリオ オデッセイ

33.New スーパーマリオブラザーズ U デラックス

34.スーパーマリオメーカー 2

35.スーパーマリオブラザーズ35



 出てるーーーーー!

 本当に35作も出てるーーーーー!


 すごいーーーー! マリオ、すごいーーーー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何の変哲もない女子高生の私が勇者として異世界に召喚されたら28年前に召喚されたのにまだ魔王を倒せていない7代前の勇者がまだいて何の話題を出してもジェネレーションギャップがすごい やまなしレイ @yamanashirei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ