ハマる悪魔

定春

悪魔のような男

 きつけのくろ提灯ちょうちん暖簾のれんをくぐると、馴染なじみの店主てんしゅかお最初さいしょはいる。

「よう、このまえってた大物おおもの物件ぶっけんはどうだった?」

 カウンターせきには学生がくせい時代じだいからのともであり同業者どうぎょうしゃのオーヴァがすわっていた。

「どうもこうもねぇって。まぁいてくれよ……」

 店主に発泡毒酒ビールたのんで愚痴ぐちはじめる。もちろん、仕事しごとの愚痴だ。

「ただの人間にえるだろ?」

 人間のおとこ笑顔えがおでこっちを見ている写真しゃしんをオーヴァにわたす。

「これがれいの? ぶんなぐりたくなるつらした男だなぁ」

 ニヤけながら写真をしげしげとながめる。

「1人で1万人分のたましいちょう大物おおもの物件ぶっけんを見つけた時は正直しょうじきこころなかでガッツポーズしたよ……でもな」

 店主からさけ乾杯かんぱいする。

「俺はつかれて寸前すんぜんのそいつにかなえたいねがごといか? ってったんだよ。そしたらそいつ、たからくじをってもたらないから10億円ほしいって……」

 おとおしの地獄じごくまめばし、くちへとほうんだ。

「1個でも叶えれば魂なんていただいたも同然どうぜんだからポンとしてやったら、そいつなんて言ったと思う?」

いのちいでもしたのか?」

「願いを叶えるのに対価が必要ひつようなんて聞いてないから魂は渡せないだとよ!」

「は? いやいや、叶えちまえば関係かんけいねえだろ。あとはっこくだけじゃねぇか」

「そう思うだろ? 俺も無視むしして本社ほんしゃ血済けっさい連絡れんらくしたら、そのやりかたでは血済けっさいできませんだと」

 俺はジョッキの酒を半分はんぶんほど一気いっきした。

「ええ? 半年前はんとしまえにそのやり方で血済けっさいできたぞ?」

「ちょっとまえに法律ほうりつわったらしくてな……大将たいしょう! 黒目くろめ秋刀魚さんま塩焼しおやき1つ!」

 あいよ、と店主の返事へんじを聞いて愚痴をつづける。

これ・・見てくれよ」

 あるページをひらいたスマホをオーヴァに見せる。

「なになに? 魂生労働省こんせいろうどうしょう提案ていあんけ、魔会まかいは魂の回収かいしゅうかんするほう改正かいせい発表はっぴょうした……」

 オーヴァはジョッキに口をけつつニュースを見る。

対価たいか提示ていじせずに願いを叶えた場合ばあい不正ふせい契約けいやくとなり、そのさいしょうじた人間の利益りえきすべ悪魔あくまがわ負担ふたんとなる……おかしいよなぁっ!」

 俺はジョッキをつくえいた。

「なにがおかしいって、こんな重大じゅうだいニュースがテレビでろくにほうじられてなかったってことだよ!」

「今は魔王の息子むすこ大臣だいじん接待せったいしていたけんで持ち切りだからな」

 はい塩焼き一丁いっちょう、と黒目秋刀魚がのったさらを受け取る。

「それで10億円負担だぜ? だから俺はそいつになにか願いをさせようと付きまといはじめたんだが……」

「そんなの、事故じこでも起こさせてにかけさせりゃわりだろ?」

「やったんだよ。それ。」

「それで?」

「あいつ! ガチで死ぬまで何も願わねぇつもりだったんだよ!」

「ってことは死んだのか?」

「いや、死んだら俺がそんしかしねえからなおしたよ……」

「お、おまえそれは」

「これも俺負担の血済けっさいだよちくしょうっ!!」

 塩焼きにかぶりついて酒でながし込む。

 あつくてしょっぱいさかなつめたいビールとうことだけがすくいだった。

「そいつが死ぬのが駄目だめならアレだ……。友達ともだち信用しんようを無くすとか人間関係にんげんかんけいをメチャクチャにしてやるみたいな……」

「それもやった」

「どうなった?」

「10億円あるのに他人たにん顔色かおいろなんてうかがってられるかだとよ」

わらうわそんなの。無敵むてきか?」

「しかも精神せいしん操作そうさ地味じみ血済けっさいおもいんだよぉぉぉ!」

「……家族かぞく恋人こいびと病気びょうき怪我けがで死にかけさせて回復かいふくを願わせるなんてどうだ?」

重病じゅうびょうにかけの恋人が入院にゅういんしてるっていたから、見舞みまいにったときにそうささやきかけてやったさ」

「うん」

「そしたらあいつ、恋人が死んだら自分じぶん一緒いっしょに死ぬつもりだって言ってよ」

「お? 今回こんかい上手うまくいきそうじゃん?」

「おもむろにとびらかぎけて」

「うんうん」

「恋人の生命せいめい維持いじ装置そうちはずした」

「……は?」

「あいつ、満面まんめんみでこっちを見ながら言うんだよ……」

「なんて言ったんだ?」


「恋人が死んだら自分も一緒に死ぬつもりだって」

「おいおい悪魔かよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハマる悪魔 定春 @sadaharu_0330

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ