第37話 【イフリート】

 盾男に溶岩の海から現れた巨大な手による平手打ちが直撃。

 まるで払われたゴミのごとく、盾男はゴロゴロと音を立てながら吹き飛ばされた。


「ぐ……ぐぅ!」

 そしてその勢いのまま。岩へと激突し、盾男の動きは止まった。


 地面に突っ伏したまま、動く素振りは見えない。


 まさか一撃で?


 だがしかし、盾男はまがいなりにもCランクの冒険者。


 いくら不意打ちとはいえ、普通の・・・魔物モンスターの攻撃、それもたったの一撃で戦闘不能になるとは考えにくい……。


 となると、この手は一体――。


 俺は盾男を吹き飛ばした巨大な手の正体について思案を巡らせた。


 そして、その考えの間に、赤黒い巨大な手は溶岩の海から這いずり出し、徐々にその全貌があらわになっていった。


 全身からほとばしるように立ち登る蒸気。燃え盛る炎のように赤い体毛。そして、二本の角を猛々しく生やした牛頭。


「あれは……あのときのミノタウロス!?」

 アンジュの驚きに満ちた声が迷宮ダンジョン内に響く。


 確かに、ミノタウロスに酷似している。

 それに右目には俺がつけた傷もある。


 だがあれはミノタウロスではない。

 いや、ミノタウロスではなくなった・・・・・というべきか。


 あれはそんな生易しい・・・・ものではない。


 あれは――

「イフリート」

 俺はぼそっとこぼすように、そう呟いた。


「えっ? 先生、いまイフリートって……?」

 アンジュは唖然とした表情をみせる。


 ――アンジュが唖然とするのも無理はない。

 イフリートは伝説ともされるほどの魔物モンスターなのだから。


 ミノタウロスが他の魔物モンスターを捕食することで進化し、イフリートへと成ると言われてはいるが……そんなことは滅多に起きることではない。


 俺もその存在を伝え聞いただけで、実際にみるのは初めてだ。


 その実力はミノタウロスを遥かに凌ぐとも――。


 そしてイフリートは、

 ズシン、ズシン!

 一歩一歩、大地を揺らしながら歩く。


 そのままゆっくりと近付き、盾男にトドメをささんと、右手を振りかぶった。


 まずい――!


 盾男は身動きが取れない。イフリートの一撃を再び喰らえば、間違いなく助からないだろう。


 確かにやつらは厄介ものだ……だが、目の前で殺されるのをただ眺めているだけってのは後味が悪い。


 それにアンジュも同じ気持ちのようだ。

 既にアンジュはイフリートに向けて構えていた。


「アンジュ! あの盾男のすぐ脇に宝箱を出す。それを魔法で撃ち抜いてくれ!」


「――はい!」


「【宝貴創造クリエイトコッファー】!」


 ◇◇◇◇◇◇


宝貴創造クリエイトコッファー】が発動。

宝貴の箱ストレージコッファー】の素材〈帰還の羽〉と〈魔石(D)〉を使用し、

 〈転移の箱〉を生成しました。


 ◇◇◇◇◇◇


 王都でラザリーから帰還の羽をいくつか貰い受けていた。

 ここで使うことになるとはな――!


 俺は宝箱を、横たわる盾男の手元に生成した。


 そしてアンジュは、

「【烈風魔法ソルダーウインド】!」

 宝箱に向けて魔法を放った。


 アンジュの杖から放たれた風弾は宝箱へと向けて真っ直ぐに進み、見事命中。


 宝箱はその衝撃で上蓋が開く。


 瞬間、宝箱を中心とした黒く小さいもやの渦が発生。そのまま渦は大きくなり、盾男を飲み込んだ。


 そして黒い渦に向かってイフリートの右手が振り下ろされた。


 ズドン!!


 イフリートの右手が黒い渦ごと地面を押しつぶし、地面が小さく隆起する。


「きゃ!」

 その光景を目の当たりにしたアンジュが、悲鳴にも似た短い叫びをあげた。


「――大丈夫だ、安心しろ」

 俺は鎌男の方を指差しながら、アンジュにそう話した。


 そして俺の指の先には、鎌男の足元に横たわる盾男の姿があった。


「え? ど、どうして?」


「転移箱は宝箱の周囲にいる者を、迷宮ダンジョン内の任意の場所に転移させる宝箱だ。通常は罠として設置していたが……今回はそれを利用して、盾男を鎌男の元に転移させた」


 そしてすかさず、鎌男の足元に向けて、

「【宝貴創造クリエイトコッファー】!」


 ◇◇◇◇◇◇


宝貴創造クリエイトコッファー】が発動。

宝貴の箱ストレージコッファー】の素材〈蒸留水〉と〈上薬草〉×三を使用し、

 〈上回復薬〉を生成しました。


 ◇◇◇◇◇◇


上回復薬それで盾男を回復させて村へと戻れ! まだ間に合うはずだ!」


 鎌男は突然のことに理解が追いついていないのか、困惑の表情を浮かべながらも、

「す、すまない」

 鎌男は宝箱を開け、中から上薬草を取り出す。

 そしてそれを盾男に与えた。


 この二人はこれでなんとかなる……あとは――。


 俺は改めてイフリートを注視した。


 イフリートも、じっと俺のことを睨みつけている。


 獲物を横取りしたためか、はたまた右目の恨みか。

 その瞳からは俺への怒りが感じられる。


 ――これはどうやら心してかからねばならなそうだな。


 だが、こちらも最初からそのつもりだ。

 ここまで無策で来たわけではない。


 何があろうと、打ち倒す。

 それだけの準備は整えている。

 ……さあ見せてやろう、俺たちの戦いを――。

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世界唯一の宝箱創造者《コッファークリエイター》 〜宝箱の中身を自分のために使ったら実は最強でした〜 山崎リョウタ @RyotaYamazaki

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