時計塔の秘密

「えっ!?忍び込む!?あの時計塔に!?」

「バカ!大きい声を出すな!」


 2人の泥棒が、路地裏で何やらコソコソと話している。


「いや、だってよぉ、あれは街のシンボルみたいなもんだから、毎日大勢の人が観に来るし、何よりあそこの警備は異常なくらいに厳重だぜ。忍び込むのは無理だって」

「そう、そこだよ!あの警備。おかしいと思わないか?」

「へ?」

「だからさあ、世界の平和を祈るシンボル、だとか言ってるけどよぉ、あんなのただの時計塔だろ?そんなもんにあんな厳重な警備、必要か?明らかに過剰すぎる」

「ま、まあ言われて見りゃあ確かに、、」


 片方の泥棒は、ニヤリと笑いながら言った。


「俺の読みが正しけりゃ、ありゃなんかを隠してるぜ」

「まじかよ、何をだよ?」

「それがわかんねーから忍び込むんだろ」

「本気かよ。。これで金にもならなかったら最悪だ」

「ひょっとしたら財宝かもしれないぜ?金銀財宝ザックザク、ってな」

「んなわけ、、」

「とにかく、決まりな。今夜23時半に」

「もう、どうなっても知らねぇぞ、、」


 こうして泥棒たちは、街の中央にそびえ立つ"平和の時計塔"へ忍び込むことにした。





 夜、23時半。泥棒たちは合流して、時計塔の入り口から少し離れた物陰から警備の様子を伺った。


「ほれみろ、ネズミ1匹通さねぇ勢いだ。侵入なんか無茶だよ」

「まあ聞けって。いいか、俺が情報筋から聞いたところによると、奴らは23時50分から0時にかけて、警備の交代をするんだ。そこがチャンスだ」

「交代ったって、どうやって中に入るんだよ?あの入り口は閉まったままだ」

「話はまだ続きがある。それでな、興味深いことに、やつらは"中にも"警備を置いてるらしいんだ」

「中?あの時計塔の中か?何の意味があんだよ?」

「だからよっぽど大事なもんを隠してるに違いねぇ。そうでなきゃ、外はこんなガチガチに固めて、おまけに中にまで警備を置いたりなんかしねぇよ」

「なるほど、、な。それで?その交代の時にどうするんだ?」

「中の警備も交代になる。つまり、扉が開くのはそのタイミングだ。俺らは交代の警備になりすまして、内部へ侵入する」

「ったく、わかったよ」


 少しして、交代の警備兵たちがぞろぞろと歩いてきた。泥棒たちは物陰にかくれ、そしてわざと遠くで物音を鳴らした。運良く2人の警備兵が列を外れ、物音のした方へ確認へ向かった。

 泥棒たちは慣れた手つきで警備兵たちを捕らえると、気絶させ、服を奪い取った。


「よし、完璧だぜ」

「急いで列に戻ろう」


 警備兵の列へ戻ると、他の兵が声をかけてきた。


「おい、お前ら何をしていた?」

「こいつが何か物音がしたっていうんでな、2人で確認しに行ったら猫だったってわけ」

「ばかが。勝手に行動するな」

「へいへい」


 (くくく、ばかはどっちだよ)



 上手く誤魔化した2人は、そのまま列に混ざって時計塔へ向かった。入り口に着き、交代を伝えると外に控えていた警備兵たちが皆引き返して行った。


「よし、外は完了。あとは中の奴らだな」


 警備兵の1人がそう言って、扉の鍵を開けた。重たい扉がゆっくりと開かれ、中から数名の警備兵が出てきた。泥棒たちはしめた、と思いすかさず中へ入ろうとすると、


「おい、お前ら待て。今日の中番はお前らじゃないだろ」

「いや、確か俺らだったはずだぜ」

「そんなはずはない。事前に確認済みだ」

「じゃあ誰かが間違えて伝えたんだよ、きっと。今日は俺らだって言われてきてるからな」

「本当か?そういえばお前ら、さっきも不審な行動をしていたな」

「だからそれはさっき言ったろ、猫だって」

「お前ら2人とも、証明証を出してみろ」


 警備兵がそこまで言ったところで、遠くから叫び声が聞こえた。


「おおーーーい、そいつらは偽物だぁああー!」


 先ほどの服を奪い取った警備兵が、目を覚ましていたのだ。  


「やっべ!おい、行くぞ!」

「えっ、まじかよ」

「こうなったらお宝だけでも頂いて、急いで逃げるぞ」


 気づかれてしまった泥棒2人は、扉へと全力疾走し、強引に時計塔の中へと入った。入り口の傍にドアロックのレバーがあったため、急いで引くと、重たいドアは閉じられてロックされた。


「ひぃー、あっぶねぇ。これで奴らは入ってこれねぇ」

「お前についていくと命がいくつあっても足りねぇよ」

「うるせー、生きてんだから感謝しろって。さあ、お宝を探すぞ。とはいえまず、電気をつけねぇとな」


 扉の閉じられた時計塔内部は、真っ暗だった。泥棒たちは手探りで壁に沿って明かりのスイッチを探した。


「あったか?」

「うーん。どれだ。えーと、あ、これじゃねぇか」

「おー、あったあった。さあ明かりをつけて、さっさとお宝を探すぞ」


 そう言って泥棒がガゴン!とレバーを引くと、時計塔の内部に、下の方から順番にライトが点灯していった。


 






 そして。








「…えっ?」



「これって…」














 "それ"は、2人の前にその姿を現した。















 ライトに照らされて現れたのは、時計塔内部にすっぽりと収まった、大型ミサイル。ボディには黒と黄色の、核兵器を示すマーク。














「…なんてこった」
















 時計塔は、まるごと核ミサイルの発射台だった。












「…平和の時計塔、ねぇ。」















 世界の平和を祈る、この街のシンボル、平和の時計塔。

 こいつはこいつなりの方法で、この街の、この世界の、平和を守ってきたのかもしれない。

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あれやこれやの短編集 ぬま太郎 @numa_yorino_numa

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