てんてん山

「え!てんてん山、知らないの?」

「なに、そのてんてん山って」


 小学生くらいの子供2人が、電車の椅子に座りながら楽しそうに話している。私はそれを、向かい側に座りながらなんとなく聞いている。


「なんで知らないの、みんな知ってるよ」

「うるさいなぁ、知らないもんは知らないんだい」

「ふふ、知りたいー?」

「知りたい」

「教えてあーげない!」

「えーーそんなのひどいよ!」


 とても仲良さげだ。なんとも微笑ましい光景だった。私にも昔は、こんなに純粋だった頃があったんだなぁと、しみじみと思った。


「どーしても知りたいー?」

「うん、どーしても!」

「じゃいいよ、教えたげる。てんてん山っていうのはね、てんてんもようをした、山なんだよ」

「てんてんもよう?」

「そう!山なのに、てんてんがいっぱいついてて、ヘンテコなの!」

「へー、へんなの」


 何だそれは。てんてんのいっぱいついた山?どういう意味なんだろうか。私は少し気になってきてしまった。


「そう、へんなの。あ!そうだ!もうすぐ見えるよ!」

「え?なにが?」

「てんてん山!こっちのね、窓から見えるの!」

「ほんと?どっち?」


 どっち!?心の中で、私も叫ぶ。


「こっちこっち!あの向こうを見てて!」

「うん」


 暫くして、車窓からの景色が開けた。私から見て、向かいに座っている子供たちの奥側に、てんてん山は姿を現したらしい。


「ほら、あれー!」

「ほんとだ!てんてんだ!」

「ね、ほんとでしょー!」

「ほんとだー!すごーい!」


 しかし、子供たちが窓側へ乗り出して見ているため、丁度私からは何も見えなかった。見たい。私もてんてん山、見たい。私はこっそりと隣の席へと移動し、角度を変え、更に首を伸ばして窓の方を覗き込んだ。



 そしてついに私は、てんてん山の姿をとらえた。


 おいおい、まじかよ。



「なんでてんてんしてるんだろー、へんなの」

「ね、ヘンテコー!」

「ヘンテコー!」


 

 電車の窓から見えたのは、先の戦争で激戦地だった丘、そしてその丘一面を覆い尽くすおびただしい数の墓標だった。

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