1.74(s)=∞の初恋

王生らてぃ

本文

 ひとめ惚れだった。

 たぶん、向こうも。



 はじめてあなたと出会ったのは、冬の終わりの昼下がり。

 誰もいない河川敷。長くて広い川にかかる大きな古い橋の上をふと見ると、まさに、セーラー服姿のあなたが、今まさに飛び降りたその瞬間だった。



 あ、



 と、声にならない声がわたしの喉から漏れて、世界がスローモーションになる。

 ふわりと落ちていくあなた。

 長い髪が落下になびいて、羽のように広がる。人間が落ちるときは頭が下になるって本当だったんだ。



 あなたと目が合った。

 白くて小さな顔、遠くからでもはっきり見えるほどきれいな瞳。それを目にしたとき、わたしは――心臓がどきんとするのを感じた。息をのみ、すべての音が消え去ったような気さえした。

 目が合った。

 あなたの表情が、わたしを見た瞬間に変わるのがはっきりと見えた。たぶん、わたしもあなたと同じような表情をしていたと思う。

 時間が止まった。わたしたちは十メートルくらい離れていて、お互いに会話もできないくらいの距離があったはずなのに、見ず知らずのふたりのはずだったのに、心が通じ合うのを感じた。

 わたしが頷くと、あなたも頷いた。

 だけど悲しいね、とあなたが呟く。



「せっかく出会えたのに、もうお別れだなんて」



 わたしも頷いた。

 あなたが卑屈そうに笑う。



「もっと早く出会えていたらよかったのに」






 水しぶきの音。

 あなたが消えた川面を見ながら、わたしは、もっと早く出会っていたら、というあなたの言葉を否定した。



「あなたが飛び降りていなかったら、きっとあなたのことは好きにならなかった」



 だけど、あなたのことが好きになってしまったのだ。

 もうわたしは普通の女の子ではいられない。

 さようなら、失恋。こんにちは、永遠の初恋。

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1.74(s)=∞の初恋 王生らてぃ @lathi_ikurumi

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