エピローグ

第51話 エピローグ

 天気は上々、気分は微妙、人混みは最悪。

 どうしてこう、いつもいつもこの町の大通りは多くの人で賑わっているのだろうか。少しはそう言った密集が嫌いな者の気持ちにも配慮して欲しいものだ。

 朝のうちに仕事を一通り終わらせ、昼が少し過ぎた頃合いに渋々やって来たログはさっそく溜息を吐いた。

 クリュスは相も変わらず無表情。しかしいつもより髪のツヤが僅かに良い事から上機嫌であることは確かだ。

 そして、そんな事に気づいてしまったばかりにいっそう、この場から逃げられなくなった。

 広場となっている噴水の縁に腰を下ろし、水の音を聞きながらボウっと無心で過ごす。

 こういった浮かない気持ちの時に待つのは得意なのだ。

 「――――――時間です。」

 無我の境地、その奥義を会得せんとしていたまさにその時にクリュスに瞑想の終わりを告げる。

 視線を空から地上へ降ろして見れば、すっかり見慣れた新顔が二つにもっと見慣れた困った奴の顔が一つ。

 「ログさん! 今日は奢ってくれるんですって?」

 食い意地の張った後輩の頭をコツンとし、「お前はダメだ。」といつも通りきっぱり言っておく。

 だがどうせ最終的に奢ってしまうのも、またいつも通りの事なのだが。

 「それで、上手くいったか?」

 「はい。あのニナナさんの映像のお陰で驚くほどすんなりと。」

 「そりゃまた、人材不足も余程深刻と見えるな。」

 「ログさんの事も諦めてはいない、との伝えるように言伝を預かっています。」

 どんな顔でアイシャが言っていたのか想像してみたが、思った以上に鮮明に浮かべることが出来てしまった。

 これはまた暫くは出くわさないよう注意をしておいた方がよさそうだ。

 「そろそろ出発の時間です。」

 クリュスの言葉を受けて、とりあえずは歩き出す。

 別に正確に守らなければいけない、というわけでも無いのだが時間をあまり無駄にするのも良くないだろう。

 「あ、あの!」

 ただ一人それまで黙っていた少女が、深く深くお辞儀をして、ログの背中めがけて。

 「ありがとうございました!」

 「……どういたしまして。それと、これからも宜しくな。」

 いつもの調子で適当に返した。

 上げた少女の顔はいっぱいの笑み。その胸元で銅のタグがヒラリと揺れた――。

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タルミナ邸の住人たち 〜奴隷少女と転生者〜 狐囃子 星 @SORASU

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