8

 これは瓶の手紙だ。


 誰かに向けて打ち明けずにはいられなかった秘密を認したためた手紙。


 彼女に打ち明けたところで闇に葬られるだけかもしれない秘密を――


 それでもわたしは彼女に打ち明けようと思う。自分の気持ちを伝えようと思う。自分の夢の、その先にある希望を託してみようと思う。


 本を出す。


 わたしは最初からそこまでの夢しか見られなかった。


 本が一冊出すのがやっとで、作家として継続的に活動することは叶わない。


 悔しさはある。たとえ落選しても、来年再来年とチャンスがある彼女を羨ましく思うことも。


 具体的な余命を告げられたのは、コンテストの最中だった。あなたたちには未来があるのだから今回はわたしに譲って、と心の中で懇願したものだ。


 そう、彼女には未来がある。


 彼女なら、わたしにはできなかったことができるかもしれない。本当の意味で小説家になれるかもしれない。本を出した、その先の未来を切り開いていけるかもしれない。


 そう考えると悔しいけど、同時に少しだけ救われた。


 彼女の作品がより多くの人に読まれるのは、素直にうれしい。古くからの読者として誇りに思う。そういう未来を夢見ながら死んでいけるなら、悪くない。


 だから、彼女の断筆宣言を読んだとき、二度も嘔吐したのだと思う。


 わたしは彼女の態度をもどかしく思いつつも、その夢には共感し、応援していたのだ。


 だから、どうか、筆を折らないでほしい。


 わたしは、彼女に直接そう伝えるつもりだ。


 一時的に創作から離れてもいい。休んでもいい。でも、諦めないでほしい。またその気になったとき戻って来れるよう自分に希望を残してほしい。あんな痛々しい形で自らの退路を断たないでほしい。


 挫折と絶望の先にある希望を追い続けてほしい。


 あなたなりの救いを見つけてほしい。


 それが別の誰かをも救うかもしれない。


 それが物語の力で可能性だと教えてくれたのは、他ならぬあなたなのだから。

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かくれ鬼 戸松秋茄子 @Tomatsu_A_Tick

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