寝るな! 寝たら1000年過ぎちゃうぞ!!

ちびまるフォイ

現代っ子サバイバル

『地球のみなさん、本当に申し訳ございません。

 研究所で開発していたタイムマシンが暴発してしまい、

 毎日0時になると時間がジャンプしてしまいます!』


緊急ニュースが流れ、子どもたちは不思議そうに見ていた。

ことの重大さを理解するまではできず、子どもたちの興味はもっぱら明日のキャンプだった。


「パパ、明日のキャンプにポチは連れていける?」


「ポチは連れていけないからお留守番だね」


「そっかぁ。でも楽しみだね」

「そうだね」


妻は夫を別室に手招きする。


「あなた……さっきのニュース……」


「明日……つまり12時を越すと、1日ではなく何日も何年も先の翌日にいくようだ」


「……どういうこと?」


「……俺だってよくわからない。とにかくガスの元栓を締めておくんだ。

 電気のブレーカーも落としておくこと。どれくらい時間が飛ぶかわからない。

 明日になったら家が焼け落ちているのは避けたい」


「私、ちょっとポチのごはんたくさん買ってくる!」


「俺は食料の買い出しにいってくる!」


夫婦は子供を家に待たせて買い物へと走った。

店にはパニックになった人たちが狂ったように防災バッグを買っていた。


もみくちゃになりながらも缶詰やカップ麺、日持ちしそうな乾物系や水を買ってきた。

もちろん犬用の食べ物も忘れていない。


「あなた、もう時間がないわ」

「すぐに戻ろう! 明日に備えないと!」


子供もポチもすでに寝静まっていた。

ポチのごはんを山盛りエサ皿にいれてありったけの食べ物を冷蔵庫に突っ込んだ。


「これで大丈夫ね」

「ああ、暖房はつけられないから今日は固まって寝よう」


家族は身を寄せ合うようにして眠った。



翌日、夫は咳で目がさめた。


「ごほっ! ごほごほっ! なんだ!? ほこりっぽい!」


夫は廃墟の中に立っていた。

ここが我が家だと認識するまでに時間がかかった。


天井には蜘蛛の巣がかかり、床はほこりまみれになっている。


「どうなってるんだ……いったい何年経過したらこんな状態に……」


「あなた……」


「起きたか。やっぱり人類は1日じゃなくて、何年もジャンプしたみたいだ」


「ポチは? ポチはどこ?」


夫はポチを探したが残っていたのは、骨の残骸だけだった。


「ポチ……ごめんな……ドア開けておけばよかったな……」


「パパ、おしっこーー」


「ああ、起きたのか。さあ、トイレへ行こうか」


「……あれ? 水流れないよ?」


「時間が経ちすぎて水道管がどこかで壊れたのか……」


夫は戸棚をあけて確保していた水を探した。

ペットボトルは時間経過で破損し漏れたのか、たくさん確保したのに残っていたのは数本だけ。


電気もガスも使えなくなっている。

冷蔵庫のものは元が判別できないほど腐った泥のようになっていた。


「あなた、食べ物がもうないわ」


「缶詰は?」


「缶ごと腐っているし、もう賞味期限内かどうかもわからないのよ」


「外に出て食べ物を探そう。今日も日付が変わったら同じように時間がジャンプするんだ」


「でも……もう車も動かないわ」


「……そ、そうだった」


家族は廃墟同然の家を出ると、外はもう別世界だった。


ほとんどの建築物が焼け落ちてコンクリートの道路はバキバキに割れている。

そこかしこで見たことのない葉っぱが生えている。


「見て! パパ! シカさん!!」


「あ、ああ……そうだな……」


「あなた、早く食べ物を探しにいきましょう」


家族はスーパーの跡地へと向かった。

荒れ放題の店内には動物たちの足跡が残っていて、食べ物は残されていなかった。


「せめて水だけでもと思ったが……ダメか……。人間がいなくなっただけでこんなにも……」


袋詰めにされているものも、開封すると中はドロドロになっていた。

結局なにも得られないまま家に戻ることにした。


けれど家はすでにガレキになっていた。

自分たちが家を出た瞬間に限界を迎えて崩れたのだろう。


「パパ、お家が……」


「今日は別のところで眠ろう。ほ、ほらキャンプの約束だったろう? 似たようなものさ」


「あなた、でもどこに行けばいいの? まだ形が残っている家に泊めてもらう?」


「そんなところどこにあるんだよ。とにかく水が確保できる場所に行こう」


家族はその日1日あるき通して、川辺の近くの洞窟までやってきた。

疲れていた家族はそのまま倒れるように眠った。



翌日、妙な浮遊感で目が覚める。


「ゴボ!? ゴボボボボ!?」


家族全員が水中に沈められていた。

子供をひっぱってなんとか水面から顔を出す。


「ぶはっ、なっ……なんだぁ!? どうなってるんだ」


水面から見る風景はどこも代わり映えしない水平線が続く。


「あなた、さっき水中に私達のいた洞窟が……」


「そういうことか。水没したから全部海みたいになっているんだ……」


「これからどうするの?」


「とにかく陸を探そう。このままじゃ体が冷え切って死ぬぞ!」


家族は腐食して傾いた高層ビルの屋上に登った。

水により錆びた金属が嫌な音をたて、いつ壊れてもおかしくない。


「……おい見ろ! あっちにまだ沈んでない陸がある!

 草木も生えているからあそこを拠点にしよう!」


「……あなた、楽しそうね」


「楽しいもんか。俺は家族みんなで生きる方法を探して……」


「もういいわよ」

「え?」


「もう疲れた! 電気もガスも水道もない現代人の私達が、

 仮にこの原始に戻った世界で暮らせるわけないじゃない!」


妻は屋上に取り付けられていた腐った金属の手すりを手にとった。


「お、おい何する気だ!?」


「あなたは平気なの? こんな過酷な状況で何も子どもたちとサバイバルして。

 私達の知らない動物や植物もたくさん生まれているこの世界で生きて満足なの?

 だったら、私達の手で死なせたほうがずっと親らしいんじゃないの?」


「できるわけないだろ!?」


「じゃあ、あなたは動物園から逃げて野生化したライオンが

 いつか自分の子供を目の前で食べられる瞬間に遭って正気でいられるの!?」


「そんなことさせない! 食べ物は釣りをして確保すればいい。

 野生動物が来たら武器を作っておっぱらうんだ。

 みんなで力を合わせればこの世界でもやっていけるって!」


「パパ、ママ、けんかしないで」


言い争う二人を子供は不安そうにしていた。

事態を何も理解していない子供に未経験のサバイバルを強いるツラさに夫婦は心を痛めた。


家族は身を寄せ合うようにして、その日は眠った。



翌日、冷たいビル風で目が覚めた。


「こ、ここはいったい……!?」


ビルの屋上に家族は立っていた。

見下ろした町並みには懐かしいコンクリートが見えている。


「も、戻った……?」


現代の名残で持っていたスマホを手に取ると電波も来ていた。


「あなた! 見て! タイムマシンが時間を戻してくれたって書いてるわ!!」


「そうか……戻ってきたんだ、元の時間に……!」


もう水没した世界で絶望することもない。

やっと取り戻せた現代文明のありがたさが身にしみた。


「パパ、今日はなにするの?」


「今日は今までいけなかったキャンプに行こうな。約束してただろ?」


「うん! キャンプってなにするの?」


「川で釣りをして、パパと一緒にシカ狩りもやってみようか。きっと楽しいぞ」


もっとはしゃぐかと思っていたが、子供のリアクションは薄めだった。


「昨日もおとといも同じキャンプしていたでしょ? 飽きちゃったもん」


子供は手元のスマホで猛獣を殺すゲームを楽しそうにプレイし始めた。

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