イマジナリーコンパニオン
イマジナリーコンパニオン(IC):インターネット上ではイマジナリーフレンド(IF)と表現されることの多い、空想上の友達。病気でも異常でもなく、本人を精神的に支える機能のひとつと考えられている。
冷たい冬の朝だ。走るにはもってこい。気分は晴れやかで、希望に満ちている。今日は何をしよう? 私は自由だ。冬休み初日。
「今日はきっと、友達から連絡が来るよ」
準備体操をしている最中、彼の声が聞こえた。私は地面に向かって微笑む。アスファルトが太陽の光を反射してきらきら光っていた。
誰から来るかな? 頭の中で返事をする。
「多分海ちゃんだろうね。それか、何の連絡もなしにうちに来るかも。そうだったら、理知。君は嬉しい?」
嬉しいよ。とても嬉しい。
「君はなんだかんだ、友達が大好きなんだ」
そうだね。そうかもしれない。ううん。そうに違いない。私は私自身が思っているよりも、友達が好きなんだと思う。
「僕はさ、前に『友達なんて十年たったら互いのことがどうでもよくなってしまう、薄く広いつながりに過ぎない』と言ったよね。でもあれは間違ってたと思うんだ」
この世には、色んな関係がある。君の言ったことは、きっと大多数の人には当てはまることなんだろうと思う。そうやって、色んな人と出会っては別れを繰り返して生きることも、悪いことだとは思わないし、もし私がこんなに私らしくなかったから、きっとそうなっていたと思う。あるいは、あなたがいなかったら。
「そうだったら、とても嬉しいね。とにかく君の友達はいい子たちだ。いや、君がいい子たちにした。彼らもそう思っているし、彼らは君を心から大切にしている」
私は今、幸せだと思う。
「その幸せを大切にするんだ、理知。その幸せは永遠じゃないから。永遠じゃないから、その幸せを心から味わうことができる。否定せずに、宝物にして、思い出にできる」
よし、私は走るよ。
身体は軽い。足は軽快に、強く地面を捉え、蹴り上げる。呼吸は一定のペースで、酸素を体中に運んでいく。血液が流れていくのが分かる。生きているという実感がある。前に向かって進んでいるという気持ちになる。世界は爽やかで、軽やかだ。前を真っすぐ見て、いつもの道を今日の気分で駆け抜けていく。その景色は、一瞬だ。この日にしか現れない、現れては消えていく新しい景色を、全部過去にしていく。全部走り抜けていく。
私は今、人生を楽しんでいる!
足には心地よい疲労が広がっている。汗が気持ちいい。一度家に帰って、タオルで体をふき、上着を着て水を飲む。そしてもう一度外に出て、歩きながらクールダウンをする。
止まっていた脳みそが動き始めて、色々な言葉が浮かんでは消えていく。そして私が少しだけ寂しい気持ちになると、また彼が話しかけてくる。彼は私が退屈すると、やってくるのだ。
「どうだい? 調子は」
まずまず、かな。少なくとも体に異常はない。私は自分の太ももを触ってみる。引き締まっていて、ほどよく肉もついている。いい足だ。
「君の足を触りたいと思う人は、男女問わずたくさんいるだろうね。それを自由に触れる君は、幸運だし幸福だろうね」
そうだね。触り心地がいいものは、自分で触っても気持ちいい。私は私の足を触るのも、お腹を触るのも、背中を触るのも好きだ。腕や胸を触るのも、楽しい。
「君はとても素敵な体を持っている。そしてそれ以上に、素敵な心を持っている。君は自分の心に触れるのが、好きだ」
だからこうして、君を呼び出して話をしているのかな? 自分の声を聞くのが好きだから。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただひとつ分かることは、君はとても魅力的だということ」
それで十分だよね。
「何もかも」
実験的倉庫 睦月文香 @Mutsuki66
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。実験的倉庫の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます