告白のチャンスはあと二回!?

タマゴあたま

告白のチャンスはあと二回!?

「明日と明後日の二回でを言えなかったらソウタは告白する権利を失います! 友達としての縁も失います! 赤の他人になります!」


 これが幼馴染のユリナから出された『今すぐ振らない条件』だった。なぜあと二回なのかを聞くと、


「今日と合わせて三回。全部だめだったらスリーアウトってこと。それに友達の縁を切るってなるとソウタも本気になるでしょ」


 だって。なんじゃそりゃ。

 ユリナは昔からおかしなことを言って僕を困らせる。昔、どう見ても雨なんて降っていないのに『雨がやまないね』って言ったり、曇り空だったのに『月がきれいだね』って言ったり。へんなの。

 うむむ……。保留にしてくれたのは不幸中の幸いだけどチャンスはあと二回か。それにしても友達の縁まで切るのはひどくないか? でも告白してきた相手と友達を続けるのもキツイのかもしれないな。


『好きです! 付き合ってください!』


 これは僕がユリナに言った言葉だ。これのどこが不正解だったんだろう?

 そういえば「友達の関係から恋人の関係になるのって憧れるなー」ってこの前言っていたような……。

 よし! これでいこう!


 放課後の教室。僕ら二人の他には誰もいない。


「今日のソウタくんはどんな風に告白してくれるのかなー」

「今回は正解してみせるから」

「ふふ、どうぞ」

「ずっと好きでした。僕のから恋人になってくれませんか」


 噛んじゃったー! 噛まないように昨日の夜に何度も練習したのに!

 恥ずかしさで僕の顔が熱くなっていくのがわかる。


「あっはっは! 大事なところで噛んじゃったねー。ソウタ。私たちっておさなにゃじみだったっけ?」


 ユリナがお腹を抱えて足をバタバタさせる。


「それで、結果は……」


 僕はその場から走り去ってしまいたい気持ちを抑えてユリナに尋ねる。


「うーん。ギャグとしては、ふふっ、百点なんだけどね。告白としては七十点くらいかなー。私の言っていたことを覚えていてくれたのは嬉しかったよ。次が最後のチャンスだからヒントをあげる。『好き』って言っちゃだめ」

「え? それだったら告白のしようが……」

「ヒントはこれでおしまい! あとは自分で考えてー。じゃあ、また明日ね」


 ユリナはそう言うと鞄をもって教室から出て行ってしまった。

 僕は赤くなった顔が元に戻るのを待ってから、とぼとぼと下校した。


 チャンスはあと一回だけか……。

『好きって言っちゃだめ』ってどういうことだろう? 好きって伝えないと告白なんてできないじゃないか。それに、失敗すると友達の縁まで切られちゃう。休日に遊んだりできなくなるのかな……。休み時間に冗談を言って笑い合ったりすることすらなくなるのかな……。


 僕の目に涙が浮かぶ。


 二回目の時は「あともう一回あるから何とかなるでしょ」なんて軽い気持ちで告白しちゃった。あと一回でユリナとの関係が全部崩れるかもしれない。友達の縁を切られるくらいならもう告白しないほうが良いんじゃないかな。そうすればユリナとはずっと幼馴染のままでいられる。


 いや! 幼馴染だけの関係が嫌だったから勇気を出してユリナに告白したんじゃないか! たとえユリナとの関係が崩れるとしても、告白はしなくちゃ!


 僕は必死に考えた。『好き』を使わない告白を。

 そしてある一つの答えにたどり着いた。これならいけるはず!


 放課後の教室。二人以外に誰もいない。昨日と同じだ。


「『好き』を使わない告白は思いついた?」

「うん。これならきっと大丈夫」

「それじゃあソウタくん、渾身の告白をどうぞー」


 僕は緊張と不安と期待で高鳴る心臓を抑えるように言葉を紡ぐ。


「きっと幸せにしてみせるから僕と恋人になってください」


 僕はユリナの目をまっすぐに見つめる。

 

「ざんねーん。不正解。それも悪くなかったけどね」


 僕の頭の中がまっしろになる。手がぶるぶると震えだす。

 ユリナはくすくすと笑っている。何がそんなにおかしいのだろう。僕の姿はそんなに滑稽だろうか。


「ソウタ、小学生の時のこと覚えてる?」


 ユリナはおもむろに話しだした。小学生?


「ソウタは私に『好き』って言ってくれた。私はとっても嬉しかった。ソウタも私と同じ気持ちなんだって。でもそのあと、ソウタは『ハンバーグもカマキリも好き』って言ったよね。ショックだったよ。私ってカマキリと同列なんだってさ」


 ユリナは何の話をしているんだろう。


「だから私は『好き』って言葉を使わせたくなかったの」


「さっきから何の話をしているの? こっちは振られて傷ついているのに。『正解しなかったら友達の縁を切る』? むちゃくちゃだよそんなの。ユリナは昔からそうだったよね。わけわからないこと言って僕を困らせてさ。僕はユリナとの関係が崩れるかもって悩んで苦しんだのに。せめて正解を教えてよ。ああ、そっか。僕とユリナはもう赤の他人なんだっけ。もうどうでもいいや」


 ユリナの話をさえぎって、僕は悲しさと苛立ちと悔しさの嗚咽まじりの声でユリナに訴える。


「わかった。正解を教えてあげる」


 ユリナが僕のほうへ歩み寄ってくる。ユリナの目に映っているのは同情だろうか。正解を聞いたらすぐに帰ろう。みじめな姿をこれ以上ユリナに見られたくない。僕の耳元にユリナの唇が近づく。


「愛してる」


 その次の瞬間、柔らかいものが僕の頬に触れた。

 僕はその場に座り込んでしまった。


「へ? 今のって……」


 何が起きたのか把握できない。


「もう一度正解を言うね。私はソウタを。私と付き合ってください」


 ――――――――――――――――――――――

 僕が落ち着いたあと、ユリナが説明してくれた。


「私、最初の告白のときすごく嬉しかったの。まさかソウタのほうから告白してくれるなんて思ってなかったから。でも、『好き』って言葉は使ってほしくなかった。それに、ちょっとした仕返しのつもりだったの」

「そうだったんだ。じゃあスリーアウトっていうのは?」

「スリーアウトの次はチェンジでしょ。ソウタが『愛してる』って言ってくれなかったら私のほうから言うつもりだったの。実際そうなっちゃったけど」

「ごめんね。正解を言えなくて。告白する権利を失うってのは?」

「告白権利は失うけど告白権利は失ってないからね」

「なんだか屁理屈みたいだなあ。『友達の縁を切る』っていうのは『恋人になるから友達ではなくなる』ってこと?」

「そういうこと。だんだんわかってきたね。でもまさか泣くなんて思ってなかったよ。赤の他人は言い過ぎたよ。ごめん」

「僕のほうこそユリナの気持ちにずっと気づかなくてごめんね」

「別にいいよ。こうして恋人同士になれたんだから」


 ユリナは照れくさそうに、でも、まっすぐな言葉でそう言った。

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