4万文字の密度じゃないです。とてつもない情報量や感情が流れ込んできて、物語終了後には読んだ人の数だけ感想や印象が生まれる名作だと思いました。
イケメン騎士と恋する姫君の逢瀬という、ありがちな『身分違いの恋愛モノ』だろうなと最初は思っていました正直。ですが実際はそれ以上の何かです。
文章力や構成がズバ抜けているため、最後まで退屈することなく、一気に駆け抜けて読み切ることができました。
見目麗しく品行方正に見えて、実はお飾りの立場であることに不満を持つ『明星の騎士』カラフ。そうした精神的な弱さや、あるいは王の妻を自分のものにしている時は優越感に浸るなど、単なる『白馬の騎士様』ではないリアルな人間味に溢れているのは好印象でした。
エレインの方は、作中で弱さと強さ・成長が描かれ、揺れ動く繊細な心の機微が丁寧に描写され、上質な恋物語だったと思います。
二人の関係や感情にだけフォーカスを当て、余計な情報や人物を差し込まず、実に美しくも儚い『不義の愛』が繰り広げられます。
……だというのに、終盤はもうドロッドロもドロドロな人間模様。
王宮の恐ろしさや謀略が描かれ、『姫と騎士の胸キュンな一夜の恋』で終わなかったのは、圧巻の一言です。
愛憎劇や運命の無常さ、それでいて選択次第では前向きな未来を掴み取ることもできるのだという、人間の『美醜』を描ききったのは素晴らしいとしか言えません。しかも4万文字以内で。
面白かった、お見事、ブラボー、それ以上の言葉で称賛したい作品でした。
最終話まで一息で読んでしまうくらいには、この作品は面白かった。
恋愛というか不倫というかそういったジャンルは、自分の中でジャンル分けすることができないくらいには読んだことがない。
だからこのレビューが恋愛ジャンルにおいて正しいレビューになっているかはわからない。
しかし確かにこの作品は良く作られていると思う。
まず一つとして、作者に文章力がある。身分の差があるからこそ燃え上がる二人の恋慕の激情ともいえる想いが、丁寧な文章を以て自分の中に流れ込んでくるのを感じた。
一時は激しく、しかし行為を終えてからの焦りや罪悪感に襲われる心理描写は、繊細で自分も感情もその描写に良くも悪くも強く引っ張られる。
何よりも身分差のある恋という向こう見ずな恋愛と、主役である二人を現実で取材したかのような精緻な描写に対する興味が強く湧き上がるからこそ、一晩で読んでしまえるくらいに、ページが進むのは早かった。
また時折描写される詩的というか叙情的な表現がまさにと声を漏らしてしまうくらいに良く当てはまっていて、本当に作者の文章の上手さに感嘆する。
意外とあっさりというか一つの童話のような展開の早さは文字数が故だと思うので、面白い作品だったからこそもっと長く読んでいたかったという口惜しさが残る作品でもあった。
だが腹八分目という言葉があるくらいだからこそ、このくらいの方が整っていて良いのかもしれない。