ゆすられる

ドント in カクヨム

Sさんの話

 Sさんは中学生の頃から、寝ているときにいきなり「揺り動かされて」いたそうだ。

 年に一回、だいたいお盆の時期。友達や親類の家など外出先では発生しない。必ず自分の家、時間は深夜の2時過ぎである。


 両肩を、両手でがっしりと掴まれて、前後にぐいぐいと揺さぶられる。

 あお向け、うつぶせ、横寝でも関係なく、体の正面から肩を掴まれる。

 大人の手ではなく、小さな子供の手だという。

 同時に必ず、女の子の声がする。


「おきて。ねぇおきて」


 二、三度ほど揺すぶられて目が覚めるが、無論そばには誰もいない。




 気持ち悪い夢だなぁ、とは感じるものの、肩にアザがつくとか、その数日後に身内に不幸がある、なんてこともない。

 十代の時はさすがに怖かったし、毎年ビックリはするものの、何年経っても内容に変化がない。しかも年に一回きりのイベント(?)である。

 大学を卒業する頃には慣れっこになってしまった。揺すられた直後こそ心臓がドキドキするが、二度寝して起きてしまえばその日の午前中のうちに忘れてしまうようになった。




 就職し、ある男性と付き合い、結婚した。

 子供も生まれた。女の子だった。


 娘さんが幼稚園の年長組になった、ある年のお盆の頃のこと。

 Sさんが寝ていると、例によって肩を掴まれて前後に揺さぶられた。


「おきて。ねぇおきて」


 ウワッと飛び起きた。

 なんだ、また毎年恒例のアレか、と身を起こした。

 いつもとは違っていた。

 自分の目の前に、誰かが正座している。 


 すぐ脇の布団に寝ていた、自分の娘だった。



「やっと起きたね」



 娘はそう呟いて、音もなく布団の中に戻り、眠ってしまったという。



 明朝、娘に昨晩のことを聞いてみても、「わかんない」としか答えなかった。

 翌年の夏からは、揺り動かされ声をかけられて目覚めることはなくなった。




 ただ。


「やっと起きたね」と言った娘の声は、しわがれた老婆の声だったそうである。

 Sさんはそれが唯一、気がかりなのだという。





 娘さんは今年、中学生になる。

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