タイトルからも感じ取れる強い主張性が、作内でも丹念に描かれている。その強さの根源がどういったものなのか、少しずつ見えてきたとき、読者は主人公の言う「赤くないハート」を思い浮かべることとなる。指輪をはめることが愛を示すように、本作のような思いもまた、揺るぎない愛の証だと言えるだろう。
黒い愛、というとなにを想像しますか?歪んだ愛を想起する人が多いかもしれませんが、この作品は純愛です。純愛なのに黒い愛。記憶はどんどん薄れていきます。でも想いは消えることなく、あなたに向かってしまう。優しい思い出。思いやりある言葉。愛満ちた時間。愛は目に見えるものではないけれど、形に残したい。記憶を慈しみながら、あなたを想い続けたい。そんな主人公の思いが伝わってくる、切ないのにどこか優しい短編小説です。