04 休憩
「今日は、人も多いので、休憩は、12時半から回してください。あと2日よろしくお願いいたします。」イベント会場で派遣会社の責任者が朝のミーティングで言った。20人くらいの人間がちりじりと持ち場の配置に向かっていく。
軽いミーティングが終わって、入口が開くのは9時半だ。腕時計を確認する9時20分を指していた。
「こんばんは。ごゆっくり、堪能してください。」
賑わうレゴの展示会場だ。あまり、結愛はレゴなど興味もなかった。色んな建物や街並みがレゴで再現されている。
結愛は3日間だけの何が何でもここで働かなくしかなった。今日は2日目だ。人の前に立つと緊張が走る。怒られるのではないのか。何を聞かれるのだろう。相手の顔色見て、様子を伺う。笑顔も顔が引きつってしまう。ただ、お手洗いはどこですかとか写真を撮ってもいいですよねとか、そんなに困る質問はされることはなかった。腕時計を確認すると、11時半になりそうだ。あと、1時間で休憩だ。
「ねえ、休憩に時間だから行ってよ」
横を振り向くと、武藤ナズナが立っていた。
「えっ、朝のミーティングで、休憩は12時半って言ってましたけど」
「何、その嘘? お前が12時半に休憩に行きたいからって、そんな嘘言ってどうするの?行けって!!」
不愉快だ。武藤が休憩に12時半に行きたいのは武藤だろう。悪気のない態度に苛立ちが募る。なんで結愛まで巻き込まれないといけないのだろう。聞いてないほうが悪いのだろう。
「じゃあ、お先にどうぞ。」
ミーティングをきちんと聞いていないのは、武藤本人の責任だ。巻き込まないでほしい。
「行けっていったんだけど」
「私は、12時半に行くので、お先にどうぞ。」
「何なの、お前、きもんだけど」
こんな人は無視するしかない。私は何の反応もしなかった。「人の聞けよ、おい」と繰り返し言ってくる。武藤はここに何しに来ているのだろう。仕事をしてる気でいるのだろうか。よくこんな大衆の前で何を言ってるのだろう。「どいて」武藤が言い出す。結愛をどけて、立ってきた。あまりにも酷い話だ。
結愛は歩いて、責任者のいる受付の方へと向かうことにした。ここで、武藤と言い争っても意味がない。
受付に派遣会社に社員である
「あの...」
「なんで、空野さんがここに来るの?」
明らかに、怪訝そうな顔を浮かべた。
「武藤さんが、私の所に来て『休憩に行って』と言われて、私の配置に居座ってしまって、言い争っても無駄だと思ってここに来ました」
「えっ、何で休憩って12時半からって言ったよね」
「そうなんですが、武藤さんが『そんな事聞いてない』って言ってて」
守田からあからさまなため息が聞こえてきた。入館の人が減ったのか、受付の
「そう、分かった。休憩まで、入口で案内しといて」
守田はあからさまに苛立ちを浮かべていた。
「休憩だって」
佐藤が言った。時計は13時半だった。佐藤と休憩室にいく。そこに武藤の姿はなかった。
「なんかさ、後ろで電話したんだよね」
結愛はテーブルに弁当を広げながら、向かいに座る佐藤の顔を見る。
「守田さんが電話してたんだよね」
「電話って、誰に?」
「たぶん、派遣会社の事務所。空野さんと武藤ナズナのこと話してた」
「そうなんだ。私ってクビになるのかな。」
「いや、たぶん武藤はクビだけど、空野さんはないんじゃない。」
その言葉に少し胸をなでおろした。結愛は自分が感情的だと知ってる。また、問題を起こしてしまったんじゃないかと内心ドキドキだった。
「ホッとした?」と言われて、結愛は頷いてしまった。佐藤に言われて図星だった。休憩が終わって受付に行くと、守田に元の場所に戻ってと言われた。
イベント会場の17時半の閉館まで、武藤とは会わなかった。休憩に戻ると、佐藤がにやついていた。
「お疲れ様」
「よかったね。武藤は明日来ないって」
結愛は言葉を失った。
「クビですか?」
「そうなんじゃない。詳しいことは知らないけど、人の話を聞いてないだから仕方ないよね。」
どこかゾッとした気がした。結愛もその立場になっていた気がした。これまで、結愛は口論して、仕事先でその日に来なくていいと言われたことがある。クビになる人を初めて見た。他人は自分の鏡だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます