03 不意に困っている
午後4時過ぎ、大学生2年になる
「ちょっと、電車で何してんの?」と、スーツを着た男性が女性の前に立って、話しかけた。
女性は「うるさいんでけど、つば飛ばさないでよ」と男性を睨み付けている。「お前、武藤だろう」と男性は言うが、女性は無視するように、リュックを抱えて、隣の車両に移ろうした。「ちょっと待てよ。武藤」と男性が女性の腕を掴んだが、「何だよ。キモイんだよ。」と男性と手を振るほどいて、逃げるように、隣の車両に行ってしまった。「なんだよ。あの女」と男性が呟いた。
『ご乗車ありがとうございます。本香駅、本香駅。お忘れ物ないようご注意ください』とアナウンスされ、ドアが開いて人が乗ってきた。電車の窓からさっきまでここに座っていたスポーツウエアの女性が駅のホームを歩いているのが見えた。スーツの男性を探した。陽頼と同じように女性を見ていた。そして、女性が手を拭いた座席シートに、人が座っていた。座った人に陽頼も、スーツの男性も声をかけることはなかった。空気が困っているように、流れていく。
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