02 シャアハウス
スマホのアラームが鳴り、画面は6:30を表示していた。
「ねえ、何でアザミのタオル勝手に使うわけ!!」
「知らない。そんなところに掛け置く、あなたが悪いんでしょう」
微かに開いたドアの隙間から、洗面所の奥に
「人の物を勝手に使ておいて、なんなのその態度はどういうつもりなわけ」
アザミが頭に血がのぼって怒り狂っている。武藤は鼻を鳴らして、「知らねえよ」と言っている。こんな険悪な中に入る勇気もないし、巻き込まれたくないので、ドアの前で口論がおさまるのを待つことにした。
「最悪だわ」 吐き捨てるようにアザミは怒りの声が静かに聴こえてきた。そして、少し開いてたドアが開いた。タオルを固く握りしめたアザミと高奈は鉢合せてしまった。
「あっ、おはよう、高奈。気にせず、入って来ればよかったのに」
その目線が外れていた。少し居心地の悪い空気が漂ってしまう。
「ごめん、アザミ。何か中に入りにくくて…」
言葉が上手く表現できず、単に言い訳をしてしまった。
「いいよ。じゃあまた後で」
アザミが少し怒っている気がした。でも、高奈を責めこともなく、自室にスタスタと向かっていった。
アザミの背中を見て、部屋に入るのを確認して、息を深く吸って吐いた。平然を装って、洗面所に中へと入って行った。
「おはようございます」
高奈は軽く挨拶して、さっきまでアザミがいた洗面台に向かった。
「ねえ、洗濯機、回ってなかっただけど!!」
高奈は、意味が分からず、隣の武藤を見た。
「何の話?」
しまったと思った。武藤に反応してしまった。無視してしまえばよかったのに、何か気になって返答してしまった。
「頼んでしょう。」
悪びれもなく武藤がこっちを見ている。
「私、昨日、洗濯しといてって言ったよね。」武藤の言葉が理解不能で、返す言葉が見つからない。ここはシェアハウスだ。自分の洗濯物は自分で洗うのが当たり前だ。少し常識外れすぎて考えに、返す言葉も出てこない。相手にしてるだけ無駄なことなので、武藤を無視して高奈は歯を磨き始めた。
「一緒に住んでいるんだから、洗濯するのは当たり前でしょう。吉瀬って本当に優しくないよね。ブスって本当に最悪だわ。」
ブスという言葉が頭に血がのぼりそうになり、小さく深呼吸した。武藤に言葉に反応しないように心を落ちつかせる。正常を保って、洗面所での用事を済ませよう。
それに、武藤は洗面所で用事は終わっているはずなのに、部屋から出て行こうしかった。高奈はゆっくり朝の準備ができず、苛立ちを募らせてしまう。
「ねえ、聞いてるの?」
武藤が高奈の腕を掴んできた。
「触らないで」
手を振りほどいた。武藤を睨みつけて、高奈は烏の行水のように洗面所から出て行くことになってしまった。
高奈は着替えてキッチン行くと、ダイニングテーブルでアザミと大家の
「おはようございます。」
「おはよう、高奈ちゃん」
恵美少し意気消沈している様子だった。恵美も一緒に住んでいるが、自室に洗面所やお風呂が完備されているので、高奈たちが使っている洗面所を使用することなかった。
「ナズナに何か言われた?」
「まあ...」と高奈は素直に洗濯物のこと話した。
「ごめんね」
「恵美さんは、悪くないですよ。」
「何それ、人でなし!!」
リビングの扉が開いて、武藤が入ってきた。
「ナズナ、やめなさい。」
「なんで、おばさんはこいつらの味方の?」
「もう、いい加減して。なんで問題ばっか起こすの!!」
恵美は姪の武藤に感情むき出して、怒っていた。武藤が来て一週間、トラブル続きだ。高奈たちが買ってきて冷蔵庫に冷やしていたお酒や食べ物を勝手に食べられるわ。アザミがお風呂に置いていた入浴用品を勝手に使うなど、問題が起きてしていた。武藤は、ルームシェアが不向きな人間なのだろう。さすがに、恵美も武藤の母親であるお姉さんの
「ナズナ、荷物まとめて置いてね」
「なんで?!」
「もう限界よ。」
恵美は、朝からため息交じりに小さい声で言った。
「行こうか」
アザミが高奈の方を見た。高奈は頷いて、立ち上がった。時計と見た。もうすぐ7時半だ。
「じゃあ、行ってらっしゃいね」
恵美に見送られて、玄関を出た。
2人は満員電車の乗ると、会話らしい会話をすることができなかった。3駅ほど進むと、「じゃあね。また家で」とアザミが降りていった。高奈の職場は次の駅だ。
高奈は短期派遣会社の人事総務部で働いていた。始業時間になると、すぐに電話がかかってかかってきた。いつ給料入るんだ、どうやってお金を引き出すんだ、仕事が辛いなどの不平不満の対応だった。昼休みにアザミの話は気になったが、連絡できなかった。この1週間、家でも会社でもストレスが溜まっていく。
「ただいま」
ダイニングテーブルにうなだれていると、アザミが帰ってきた。
「おかえり」
アザミが心地よくビールを飲んでいた。それがとても穏やか表情だった。
「なんかあった?」
「どうして?」
「何となく」
ニコっと、アザミが笑った。
「武藤なら、出て行ったのよ」
「えっ、そうなんだ。でも、急だね。」
「うん、なんか今日の朝、恵美さんが武藤の母親に電話するって言ってたから」
「そうなんだ。知らなかった」
「まあ、あの過保護の母親を言いくるめるのは大変だったみたいだけどね」
しみじみとアザミが遠くを見ながら言った。室内は静まり返っていて、落ち着いた空間が広がっていた。武藤が居なくなっただけで、なんでこんなに穏やかなのだろう。
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