05 失った存在
小学校の卒業式、君を思うほど、校歌の音が切なくなり鳴り響く。素敵な日に君を送り出すことができて本当に良かった。すべてを解放するほど、終わりを告げて、新たな始まりのドアが開かれた気がする。
良い人生だったと言えるように、迷いのない言葉を並んでいく。いつも自慢ができるそのことを。
悲鳴と共に、冷酷な心が、錆びれた笑いへと変わっていく。救急車のサイレンが鳴り響く。
教師たちの慌てふためいたいる姿と、保護者や生徒の嗚咽のような声が入り交じっている、この卒業式は一生、誰もが忘れない日になったのだろう。
校舎から飛び降りた君の姿を見ることはできなかった。
「大丈夫か?乾。」
「大丈夫です」
そう言って、たくさんの人が僕の心配をしていた。 唯一の友達と思われていた君、
君が死んでも、誰も困らないのだろう。そこには、せっかくの卒業式をぶち壊しあがってと怒っている人たちもいたよ。君って、やっぱり疫病神だったのかな。
君は昨日の夜、僕に『屋上から飛び降りて、死ぬから、止めないで』とアプリの通話で言っていたよね。僕は「そう、しかたないね」と、悲しいそう声を出すように言って、止めなかった。君はきっと、僕が引き留めてくれるとでも思っていたのかな。本当にバカだよね。言うわけないじゃん。君が死ぬことが本当に僕の勝利でしかなかったから。君の友達のふりが今日で終わった。ありがとう。いなくなってくれて。
「最悪だ。なんで、こんな気分の悪いことするかな」
それを言ったのが武藤ナズナだ。いつもそうだ。この女が僕の気持ちを不快にしてくる。そして、他の女は仲間にならない。1人で叫んでいる。
「武藤が死なばよかったのに」
数人の男女が後ろからそう聞こえてきた。健司の死より武藤の方が目立ってしまった。僕もどこかで、武藤の方が死んでくれたらよかったのにと思ってしまった。
でも健司といることは疲れていたことも事実だ。弱いから、すぐいじめられる、すぐに馬鹿にされる。ずっと卑屈な言葉が並べていく。僕も1人でいることが寂しかった。だから、一緒にいた。だから卑屈な言葉に付き合ってきた。でも限界だった。「乾も僕のこと、嫌いなんでしょう」と言われてた時に、『そんなことないよ』と言ったけど、嫌いではないよ。でも好きでもなかった。ただ、寂しいから一緒にいた存在なだけだった。
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