告白のその先へ


 本当に言いたかった言葉だった。


 本当に言われたかった言葉だった。


 ——じゃあここで、言わない道理があるだろうか、いやない。


 僕はその言葉を言いたいんだ。別に、振られたって、嫌われたって構わない。もしも万に一つの確率だったとしても、いやもっと——億に一つの願いだったとしても、僕はあきらめたくはない。


 私だって、このおめかしも着物だって……今日という、この日だけの、この日だけのために頑張ったんだ。絶対に、絶対に振り向かせてやりたいんだ。ブス? そうかもしれない、客観的にはそう言われるかもしれない。でもさ、それもでさ、恋はしたいんだ。だから私は彼を見たい。ただそれだけを願って、祈って、行動している。


「え?」


「……今、好きって言った?」


「い、い————っ……た///」


「そ、そそ……そうだ、よね…………」


 え、なに? なんだ? なんなんだ? ヤバい、え、分からない、ん、え、ちょっと、うん? もう、やば―———どうしよ。


 これは僕が言おうとしていた言葉だった。そんな言葉にはこれだけの重みがあったということを知った初めての瞬間だった。


 だからか。

 だから、みんなはあんなにも恐れて言えなくなるのか。その理由が今分かった。


「……」


 いや、しかし。


 何も言えない自分に腹が立った。

 あまりの緊張と同様で心臓がバクバクいっているし、体が硬直しつつ震えて口が動かなかった。


「……っ…………」


 そんな僕に対して君も身体が震えていた。僕もそうだけど、頬が赤くなって紅潮している。


「……そ、その」


 だが、最初に口を開いたのは君だった。


「へ、へ……へ…………返事」


 勇気を振り絞った言葉。震えてままならないはずなのに、君は言った。僕が聞いただけで固まってしまうような凄い言葉こくはくをしたはずなのに、どうしてだろう。


 君はそれでも、言っていた。


 真っ赤な顔をこちらに向けてそう言った。


「……え、えっと…………」


 こぶしを握り締める。

 しかし、口は定まらない。


 でも、君のそんな姿を見た瞬間————僕は一言を発していた。



「……うんっ————あ、ありがと‼‼」


 刹那。


 火の玉が夜空ソラへと打ちあがり、そして束の間————それは極彩色の綺麗な花びらに変わっていた。


 なんで? 

 

 あれだけ粋がってたのに、君の方から言われるなんて―———僕もまだまだなんだな。


 まあでも、いいか。付き合えたんだしいいよね?


「ねぇ、早くいこっ!」


「……うんっ」


 



 人生、為せば成るとは言いたくはない。良いことも悪いことも、なによりも辛いことだってある。でもさ、諦めないでやっていたこと―———ん? 何?


 お前、諦めるも何も「好き」って彼女に言われてるやんけ―———って?


 っく……よくも変なところに気が付きやがって…………まぁ、当たり前か。クソッたれ、クソッたれ読者め、クソビッチめ。


 おっと、ごめん……口が滑った。


 まあさ、行き当たりばったりなんだよ、人生っていうのは。なんかわからないけど、受験に受かったり、失敗したり、なんかわからないけど告白したら付き合えちゃったり、それでもそんな子を好きになったり―———数えれば数えるほどそんなことは見つかる。


 だから、もしも嫌なことがあったんならとりあえず頑張ってみろよ。それで無理ならその才能がないだけなんだ。きっと。


 これは、僕にも向けた言葉だ。


 こんなふうに……女の子に告らせちゃう僕なんて言う小心者に向けて、女の子を花火大会に誘うだけで心臓がはち切れそうな僕に向けて、こんな言葉を送りたい。



 馬鹿みたいに、全力で。


 ただ、それだけだと思ったんだ。

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恋した君と行く花火大会。 藍坂イツキ @fanao44131406

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