本番はこれからだよね。



 どうしてだろうか。


 目の前で爆ぜては消え、爆ぜては消えを繰り返している彩色の火花があるというのに僕はずっと隣を見ていた。


 それは驚くほど綺麗で拭っても拭いきれないほどに儚く、夢の様で……走馬灯を見ているかの如く美しい。


 でも、隣にいる少女は————ただの人間なのに、そのどれよりも劣っているはずなのに……僕の視線は一向に離れていかない。


 いや、むしろだ。

 むしろ、君に吸い寄せられていく。


 河川敷の芝生から見ている彩色の火花の爆発音が一面に響き渡り、その色であたりを照らす。その日だけは街のみんながそれを見ることに目を奪われ、お祭り騒ぎになり、警察までもが出頭するような行事だというのに。


 僕はそれでも、君を見ている。



「きれい……」


 君は言った。


「……あぁ、綺麗だ」


 僕も言った。


「すっごい、鮮やか」


 続けて、君は感想を述べる。


「華やかでもあるかな」


 加えて僕は付け足して。


「「なんかほんとに、死んでもいい」」


 二人の言葉が重なった。


 運命なんてわけでもない。君の事を言っていた僕に対して、君は花火の事を言っているはずだ。もしも運命ならば、僕と君ではなく。それは君と花火が付き合うことになる。


 そんなこと、この僕が断じて許すまい。


 まぁ、でも。


 なんか面白い。


「それでさ……なんで、ずっとこっち見てるのさ?」


「え」


 その瞬間、背筋が凍るだった。


「え、じゃなくて——こっち見てるでしょ、ずっと?」


「み、見てないよ~~」


「はは~~ん、私に……嘘を、ついちゃうんだ?」


「う、うう、嘘なんてついてないけどねっ——」


「もう、顔に書いてるよ? 私がしたって」


「え、まじでっ⁇」


「っぷ、ふふ…………」


「な、なんで笑ってるんだよ!」


「ごめんごめんっ……なんか面白くて」


「も、もう……」


 笑う君も眩しいほどに、とてつもなく可愛かった。


 ————そんな風に、心の奥底に眠る冷静な僕は評価していた。まあ、評価なんてする必要なんてないくらいに君の魅力は溢れているけど、やっぱり言葉にするほうが誇れる(?)し。


 ひゅ~~~~~~~、バァンンンン‼‼


 二人の間を抜けていくように花火が打ちあがる。思いが一つになった演出ならより一層綺麗なんだけど、花火職人にそんなシチュエーションをおもんばかる義務はない。


 しかし、やはり僕の目を虜にするほど君は美しかった。


「ほら、見てるじゃん」


「っげ!」


「あははっ、ほんとに見てるんだね~~?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべる君。子供が遊ぶおもちゃを手にしたときのそれと似ている。


「ご、ごめん……」


「え? いやいや、全然嬉しいけど?」


「っ? そう、なの?」


「だってさ、好きな人に見つめられてるんだよ? 嫌なわけないじゃんっ、ていうかむしろさ? さいっこう、じゃない―———」


 刹那、風が二人の間を切り裂いて、数秒間の静謐を作り出す。


 まるで志向が止まったかの空間で、僕たち二人の思惑は錯綜していた。


「え?」


「あ」


 なんか、気になるけれど。


 正直、そんな軽い程度の話ではない。


 もう、見なくても分かるけれど。


 それは、それは、その言葉は——



 ——完璧なる——


「好き……?」


 告白だったのだ。


〈あとがき〉


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