第69話 クロノユウシャ
「耳の穴かっぽじってよく聞けよ。俺の後ろにはアストレア姉がいる。つまりお前らの行動は全てアストレア姉に筒抜けであり、謀反の動きもなにもかも全部を把握してるってことだ。そして今日その動かぬ証言も得た。他ならぬお前ら自身の口からな」
「ばかな、まさかそのようなことが……」
「終わりだよモレイオス男爵。お前とお仲間にあるのは死のみだ。ああ一応アストレア姉に言われてるからな、ここでは殺さずにちゃんと裁判にかけさせてやる」
リュージとしてはアストレア姉の命を狙う悪人とわかった以上は、殺した方がはるかに手っ取り早くて楽なのだが。
事前にアストレア姉からかなりきつく殺すなと言われてしまっていたので、お姉ちゃん大好きシスコン拗らせやばやばリュージとしては、素直にうなずかざるを得なかったのだった。
だってリュージはアストレア姉のことが大好きだから!
だがしかし。
「か、かくなる上は……者ども出会え、出会え!」
モレイオス男爵のその声に、廊下から数十人ほどの武器を持ったガラの悪いゴロツキがぞろぞろと現れた。
「おいおい、俺とやるってのか?」
「ははははっ!」
「何がおかしい?」
「よくよく考えてみれば、たった1人で何ができるというのだ! ここでお前を殺してから、各地に伏せてある戦力を結集して勢いそのまま王宮に攻め込めばいいだけの話ではないか!」
「俺は一応忠告はしたからな? ここから先はどうなっても知らないぜ?」
リュージの心に、怒りと殺意が激しく膨れ上がっていく。
自分の命を狙う愚物相手であっても公平な裁判にかけさせてあげようという心優しきアストレア姉。
そんなアストレア姉の想いを聞き入れないとは、このカス野郎どもは絶対に許しはしない……!
リュージは燃えるような怒りと冷たい殺意を膨らませながら、師匠であるサイガの形見、菊一文字をスラリと抜いた。
「御託はもうたくさんだ! お前らやってしまえ!」
モレイオス男爵の命令を受けた浪人やゴロツキどもが、一斉に剣を抜くと斬りかかってくる。
「悪いが優しいアストレア姉と違って俺は甘くはないぞ――神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』」
リュージの身体が、冬に乱れ舞う風花のごとく荒れ狂った。
斬撃が舞い踊るたびに血しぶきが飛び、死体が転がる。
軍団を皆殺しにするための神明流の対軍奥義が、瞬く間にモレイオス男爵邸を真っ赤な血の海へと変貌させた。
そんな、配下のゴロツキたちや謀反を行う同志たちが目にも止まらぬ速さでリュージに皆殺しにされていくさまを、モレイオス男爵はポカーンと呆気にとられて眺めていた。
「な、な、なんの冗談なのだこれは……」
モレイオス男爵の股間がじわっと熱くなる。
常軌を逸した圧倒的すぎる殺人の舞を見せられて、恐怖のあまりに赤子のように小便をもらしてしまったのだ。
「さてお前以外はこれで全員あの世に行った。モレイオス男爵、代表者として最後に何か言い残すことはあるか?」
「さ、裁判を……せめて裁判を受けさせてくれ……」
「おいおい、お友達が全員死んだってのに、自分だけは裁判を受けさせろってか? さすがにそれは虫がよすぎる話だろ? それに言ったはずだぜ、俺はアストレア姉と違って甘くないってな」
リュージが菊一文字を一閃すると、モレイオス男爵の首がゴトリと床に落ちた。
この場にいたモレイオス男爵以下主だった首謀者、配下のゴロツキどもは皆、物言わぬ屍となり果て。
この度の謀反の一件は、アストレア姉を想うリュージの献身的な活躍によって未遂のまま幕を閉じたのだった。
ちなみにリュージは嬉々としてアストレアに報告に行ったのだが、
「リュージ様、どうしてその流れで首謀者のモレイオス男爵まで殺したんですか……余裕で生け捕りにできたじゃないですか……」
アストレアにため息をつかれてしまって、リュージは木箱に入れられた捨て猫みたいにしょんぼりとしてしまった。
それでも、
「でもでもリュージ様のおかげで反乱を未然に防ぐことができました。ありがとうございますリュージ様」
大好きなアストレア姉がそう言いながら頭を撫でてくれたので、リュージはすぐにご満悦になる。
見ての通り、アストレアの前では完全に別人で、シスコンがやばい感じに拗れに拗れてしまっているリュージだった。
クロノユウシャ 皆殺し編「泣いて喚いて許しを乞うても、今さらもう遅い」(全方位復讐譚、残虐描写あり) マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~ @kanatan37
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