第68話 モレイオス男爵の罪

 リュージと青年リーダーのラッセルがそんな話をしてから約2週間後。


 リュージはモレイオス男爵の動向を調べ上げていた。

 ラッセルからもらった情報をもとに、アストレアにも協力してもらいながら徹底的に調べ上げ――徹底的に調べ上げるまでもなく完全にモレイオス男爵は真っ黒だった。


 王都の各地に私兵を集めて決起しようとしていたのだ。


 今もモレイオス男爵邸にて大絶賛、秘密の会議の真っ最中だった。


 神明流・皆伝奥義・六ノ型『さくの夜ナギ』によって『気』を極限まで低下させたリュージは、新月の夜に風が凪いでいるかのごとく気配を完全に消して、天井裏に潜んで聞き耳を立てる。


「戦力は相当に整いましたな」

「我らの手勢もいつでも行けますぞ、この国を我らの手に正しく取り戻すのです」

「我ら伝統ある古き良き貴族の領地を奪い身分を剥奪するなどしおってからに……あの生意気な小娘には目にもの見せてくれるわ」

「なんでも平民に発言を許可していると聞き及んでおります、平民に政治参加させるなどあるまじきことですぞ」

「まったくだ、断じて許せん」

「国家と政治をいったい何と心得ておるのかあの小娘は」

「くくっ、だが顔は実に美しいではないか。捕まえた暁にはワシの逸物をあのおしゃべりな口につっこんでひぃひぃ言わせてやろうぞ」

「おおっ、それはよいですのぅ、ぜひ私も混ぜていただきたく。ふひひ、2本刺しといきましょう」

「では私も」

「3本刺しですな」

「夢が広がりますな」

「くっくっく」

「ふぉっふぉっふぉ」


「はいお前ら全員アウト、もれなく死刑な」


 いつの間にか音もなく部屋の中に降りたっていたリュージが、ここに集まった謀反人たちのあまりの愚物っぷりにため息をつきながら言った。


「なっ、何者だ! 名を名乗れ!」

 突然部屋の中に現れたリュージに、モレイオス男爵が指をさして怒鳴った。


「テメェらに名乗る名前なんざねぇんだよ。でもまぁクロノユウシャと言えば、今から何が起こるかそのバカな頭でも少しは理解できるかな?」


「クロノユウシャだと!?」

「昨今世間を賑わせている義賊か!」

「グラスゴー商会で一夜にて数百人斬り殺したという殺人狂だぞ!」

「まさか本当にいたのか!?」

「殺人狂の分際で偉そうに!」

「それよりもなぜここにいる!」


「ま、なんだ、話はすべて聞かせてもらった。全員国家反逆罪な。神妙にしろ」


「ふはははっ、なにが国家反逆罪だ無法者め! 私を誰だと思っている!」


 代表するように一歩前に出たモレイオス男爵が、高笑いをしながら言った。


「は?」


「我こそは畏れ多くもシェアステラ王国より男爵の地位を授かったレイノルズ=モレイオス男爵であるぞ! キサマのような怪しげな無法者風情が何を言おうと、誰も信じぬわ! ええい図が高い! この物も知らぬ下賤の民めが! とっととこうべを垂れんか!」


 勝ち誇ったように言ったモレイオス男爵だったが――、 


「へぇ奇遇だな、俺もシェアステラ王国の女王であるそのアストレア姉から、悪を討つ悪として『殺しのライセンス』を貰ってるんだよ」


 リュージのその発言を聞かされて目を大きく見開いたのだった。


「なん……だと!? アストレア女王陛下からだと……? そうか、キサマは――クロノユウシャとは女王直属の公儀隠密であったのか! そう考えれば今までのことにも全て納得がいく!」


 実のところはまったく違っていて、実際はリュージがアストレアの権力を上手く利用して勝手に復讐をしていたし、それがたまたまアストレアの政敵やら政商やらだっただけである。

 しかも復讐が完了した後は、ただただ麗しい姉弟愛による無償奉仕活動だったのだが。


 敢えて説明することでもなかったので、リュージはそこについては何も言わなった。


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