True end.

 ある時、妹の様子がおかしいことに気が付いた。


 いつも通りの"共依存"今日は俺の番で、ユキに膝枕をしてもらったあと添い寝をしてもらった。


 真正面から抱き締めて本来は終わりのはずだった。背中に回された手が外れ、俺の胸、腹、そして遂にズボンの中にまで入ってきた。


「お、おいっ!」


「……はぁはぁ……」


 俺を見ているようで見ていない目をしている。声も聞こえていないのか、止まる気配もない。


 これは越えてはいけない一線だ。


 仕方ないので腕を掴んで引き離し、ベッドから飛び出る。ユキはゆらりと起き上がり、酔っ払ったような表情を浮かべている。


「これは、ダメだろ」


「……?」


「これは兄妹でやることじゃないだろ」


「たっくん、大丈夫ですよ。これは兄妹ですることですから」


「ごめん、俺がずっと先延ばしにし続けたからそうなっちまったのかもな。それは恋人同士でやることなんだ、お前も大人なんだからわかるだろ?」


 ユキはベッドから下りて俺の前でしゃがみこんだ後、手を俺の頬に添えて笑みを浮かべた。

 ダメだ、聞いてない。話し合う必要がありそうだ。何故いつまでも"共依存"という名の"恋人ごっこ"に付き合ってるのか。


 俺にはわかるんだ。


「俺に恋人ができるのを……待ってるんだろ?」


「──え?」


 添えた手が俺の声によって止まる。


「俺が夢を諦めてまでお前を支援した。入社してすぐ恋人作ってすぐ妊娠、そんなことになったら俺があまりも可哀想過ぎるから、せめて俺に相手ができるまで待ってるんだろ?」


「……」


「否定しないんだな。俺は大した才能もないし、恋人も寝取られるし、もしかしたら自分より不幸かもしれない……だから構ってくれるんだろ?」


「……」


 手を胸の前で組んでぎゅっと握るユキ、唇を噛み締めて俯いている。


「だがわからない、何で恋人ごっこなんだよ……。突き放せば良かったのに、俺はお前の踏み台で良かったのに、何で持ち上げようとするんだよ!」


 わかってる。ユキはただ、優しくて傷付きやすい子なんだって。だけど黒い部分が全くないわけじゃない、俺の言ったことが多少なりとも当たってるからこそ否定しないんだ。


「……終わりにしよう。普通の兄妹に戻ろう、お前だって恋人を作ってもいいんだ。綺麗だし、可愛いし、実際何度も言い寄られただろ? 俺にいつまでも囚われていてはいけない。俺みたいな寝取られ野郎のことなんか忘れて、どこへなりともいけばいいんだ……」


 ──ぎゅっ!


 柔らかい感触が頭を抱えて俯く俺を包み込んだ。


「私はたっくんが思ってるより良い子じゃないんです。同じ女性です、あの方がたっくんを裏切るのはわかってました。自分に都合の良い人を彼氏にする、たまたま高校でたっくん以外に当てはまらなかったからたっくんに一筋だっただけなんです。行動力もあり能動的、となれば就職で世界が広がったらあのようなことになるのは必然だったんです。そして私があなたを慰めた、あれだけ強大だった兄が私にすがる……それだけが目的快感だったのに、いつの間にか変わってしまいまして。それが何かというと……とりあえず行動で示しますね。──ン」


 顔を上げた俺の唇にユキの唇が触れた。いきなりのことで押し退ける事ができなかった。兄妹でやることではない、それを軽々と越えてきた。


 くぷっと空気が抜ける音、俺も顔を傾けて対応してしまった。理性より、心地よさと気持ちよさを優先したんだ。


「……ふぅ。あの時、歪んだ快感と思っていたものが、実は愛だと気付いたのは最近でした。たっくんが言ったことも少しは考えました。でも違うという疑念は次第に強くなって……ずっと我慢していたけど、今日は止まらなかったんです。ねぇ、たっくんは私のこと、嫌いですか?」


 ユキは再度、顔を近付けてくる。答えなんかいらない、俺も行動で示せ、多分そういうことなんだろう。


 今まで必死に隠してきた俺の気持ちなんか、とっくにバレバレだった。妹の未来を奪ってはいけないと、リミッターをかけていたのに……もう、無理だ。


 俺は妹の唇を避けなかった。むしろこちらから触れ合わせた。胸を手で揉みながら、そのままベッドに押し倒した。


「後悔しないな?」


「……きて、たっくん──ンぁあっ!!」


 俺は実の妹と1つになった。シーツに広がる赤い痕は彼女が俺だけを待ち焦がれていた証。


 俺達は繋がったまま一晩中愛し合った。


 シーツを替えて裸の状態でのんびり過ごす。20代中盤の俺は18の時程の体力はない。無茶し過ぎたかもしれない、腰が痛くてベッドから出られない。


「……ん、んん……たっくん、起きたんですか? おはようございます」


「良かったな、休日で。もう昼だぞ?」


「あはははは……激しかったですからね」


 ユキは胸をシーツで隠しながら起き上がる。そして俺のスマホのロックを解除して操作を始めた。


「もう婚活の必要はないですよね?」


 手慣れた手つきで婚活アプリ削除と会員退会を済ませるユキ、割りと嫉妬深い性格なようだ。


「ああ、いらない。もうその必要はない。邪魔者もいないしな」


 かつてはいたお手伝いさんも今はいない、普通どころかそれ以下にまで落ち込んだ家計。それは本家も同じことで、すでに過去の権威も失われている。


 きっとかつての力があれば、今の俺達は引き裂かれてしまったことだろう。


 正月に両親の元に帰った時に何と言えば良いか……それだけが悩みだ。


 ☆☆☆


「たっくん、そろそろ子供達が帰ってきますよ。そしたら晩御飯の買い物に行きましょう!」


「ああ、そうだな。準備しておくよ」


 力を失った両親は周囲との価値観の違いからかなり苦しんだ。そのお陰なのか、今ではかなり丸くなって俺達のこともすんなり認めてもらえた。


 ちなみに、男の子と女の子が産まれた。何の因果か、兄と妹だ。子供達には俺達のような思いはさせない、暖かな家庭を築いていくつもりだ。


「たっくん、2人が愛し合ったらどうします?」


「断固反対だ!」


「もう、どの口が言ってるんですか」


 ──ガラガラ。


「お、帰ってきたみたいだ。エンジンかけておくよ」


「パパー!」「ママー!」


「ふふ、今日はカレーにしようと思います! さぁ、お行儀よく車にレッツゴー!」


 今では彼女の兄で良かったと、心の底から思ってるよ。

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