魔法が降る街で

野菊

佐藤 まりな 1

通りがかった無愛想な女から言われた。

貴方は十分に色んな人に影響を与えて生きていると。

何度も何度も人生をやり直した私にはその意味がわからなかったし、分かりたくもなかった。くだらなかった。


影響力のある人物になりたい。

誰かに褒められたい。

誰かと素敵な時間を共有したい。

色んな言葉を色んな人に届けたい。

思い出の時間をたくさんの人とすごしたい。


誰かの人生の一部分になりたかった。そう思って歩んできた人生は十人十色。

何度も何度も過ちを繰り返し、何度も何度も人生をやり直しては、何度も何度も自分を殺してきた。

「次こそは誰かの心に残りたい」

この街に来てから既に十数回そう願い、人生をやり直してきた。

意気込んで始める人生を勢いよく突っ走って壁にぶち当たり壁沿いを歩く。そうしていくうちに走っていた理由も、走り出した理由も分からなくなる。気付けばいつも壁なんかどこにも無くなっていて、私はただ呆然と海の中1人で沈んでいるみたいだった。

ちなみに前回の人生は有意義だった。色んな人にチヤホヤされて、途中までは順調だった。歯車が狂ったのがいつからだったのかは忘れてしまったけれど、とても順調だったし有意義だった。

今回は成功だ。今回こそ私の最高の人生だ。と何度も心の中で確信した。でも違った。今回も泥沼に足を取られたのか、それとも私が歩くのをやめたのか失敗に終わってしまった。私はその人生に終わりを告げるためにセンターに駆け込んでいた。

センターと言うのは、この街の真ん中にある大型の施設。ほかの街や世界では役所と呼ばれるような場所に間違いないのだが、ここは役所と呼ぶより施設と呼ぶ方がなんだかあっているような気がする。

間違いなく法的な処置を執り行う場所なのだが、堅苦しくない感じがどうしても役所と言えない原因なのかもしれない。

私はセンターの中にある人生課を訪れる。

人生課の電話ボックスは全部で1番から120番まで設置されている。その中でも私はVIP専用の8番のボックスをつかう。いつもここ。8番は私のラッキーナンバーだから。

「一之瀬です。ユズキさんはいらっしゃいますか」

カードを通してお金を支払ったら、ボックスの中で話し始める。VIP専用のボックスでは受話器は取らない。取らなくてもカードを通すとアナウンスが話しかけてくるからである。それに椅子もある。広くはないがほかのボックスよりマシだ。

【暫くお待ちください】

アナウンスが待てと言った数秒後にユズキさんは到着した。

「はいはーい。ごめんねー。一之瀬ちゃん。今回はどんなのがいいのかな?」

大画面モニターに現れたユズキさんはボサボサ頭にパジャマみたいな格好だった。いつも通りではあるが、ズボンに穴が空いているのだけは見ていられない。

「起こしちゃいましたか」

「いやいやー。大丈夫だよー。寝起きでごめんねー」

「穴……」

ハッとして苦笑いをし、見ないでと言わんばかりに手で穴を隠す様子を見ると呆れてしまう。

急に呼ばれたからと言って、寝起きのまま常連のお客さんにパジャマでてくる正社員を雇っているこの会社自体に嫌悪感はあるがまあ仕方ない。

「また新しいの組むのに最短どのくらいかかりますか?」

「んー。そうだなぁ。内容にもよるけど……、早くて半日かな。前使ってたのは完全にリセットでいいんだよね?」

新しい人生を作り直すのにリセット含め半日。これはとてつもない速さで、分かりやすく例えると買ったばかりのゲームソフトを1時間くらいで攻略してしまっているような感じ。

こう見えてもユズキさんは人生課ではトップの成績を誇るエリートだ。人は見かけに寄らないとゆう言葉はきっと彼のためにあるのだろうと思う。

「はい。引き継ぎはなしでお願いします」

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魔法が降る街で 野菊 @Nogiku_si

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