over extended. 絶妙な心配りと気付かない朝

 彼が起き出してくる前に。ピクニックの準備。サンドイッチとか。いろいろ作る。

 彼。眠っている。一瞬起きたけど、やっぱり眠った。

 彼は、最近、おかねと喋ることが多くなった。最初は何をしているのか分からなかったけど、見ていたら、本当に、おかねと喋っているみたいだった。おかねも、なぜか応えているみたいな感じがする。

 訊いてみたら、おかねも自分と同じように消えるんだと笑っていた。あまりに儚くて、切ない笑顔だったから。いつもより長く抱きしめた。彼はちょっと泣いてた。首がしまりすぎたらしい。

 彼がいるときは。彼の会社はビルにあって。彼が消えると、ビルは空きテナントになる。それすらも、日常になっていく。

 彼は、今も、ときどき、消える。いなくなってしまう。最初は、どんどん頻度が少なくなっていって。ほとんど消えることはない。それが、うれしい。

 でも。

 やっぱり。

 ときどきは、消えていなくなってしまう。

 たぶん、明日あたり、消えちゃうから。明日の予定だったピクニックは、今日に前倒しです。

 消えてしまうのなら。

 繋ぎ止める。

 わたしが。

 せいいっぱい、抱きしめて。

 彼。またちょっと起きて、すぐ眠った。ピクニックは明日だと、わたしに伝えたいのかもしれない。だめです。今日にします。消えちゃうから。消える前に。思い出を増やしましょう。

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微妙な心と気付けなかった朝 春嵐 @aiot3110

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