朝。

 彼が消えた朝も。

 こんな感じの、良い朝だった。晴れていて、あたたかくて。きっと、多くのひとが、良い朝だと。そう思えるような。

 でも、彼はいないから。わたしにとっては。良い朝ではない。

 目覚めたけど、起きたくはなかった。起きたら、彼を探す。部屋中。そして、お外も。そして。彼がいない事実にうちひしがれながら、わたしの1日がはじまる。

 そんな朝なら。来なくていいのに。彼がいるなら。ずっと夜でいい。


「ぎゅむ」


 ぎゅむ?


「くるしいんですけど。だきしめすぎではないでしょうか」


「うわっ」


 彼にヘッドロックをかけていた。


「おはようございます。首が。ねちがえたみたいになった」


「なんで」


「え。いや。俺に聞かれても」


「消えた、って。なんで。消えてたのに」


「うん。消えてた。そして今、なぜかここにいる。俺も分からない」


 起き上がろうとした彼を、つかまえて。もういちど抱きしめる。


「いだだだだ」


 暖かい。彼の身体だった。


「いたいいたい。いたいよ。ねえちょっといたいですくびがもげる」


 離さない。心でも。身体でもない。もっと深い、深く深いところで。彼を繋ぎ止めるように。


「ごめん。本当に。ごめん」


「何が?」


「あなたが消えるのを。わからなくて」


「いや。俺も分からないし。そもそも消えるのが意味分かんないよな」


「ここにいるよ。あなたは。ここにいます」


「はい。俺はここにいます。いますけど、そろそろ首がげんかいまでしまってきてます」


「あっごめんなさい」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る