日本史の先生代理になった。面倒な生徒に恋をした。

蒼井青葉

始まり

 「頼む!先生代理として夏休みの補習に参加してくれ!」


 夏休み目前の7月中旬のこと。俺は職員室に呼び出され、日本史の先生に意味の分からない頼みごとをされていたのだった。


 「嫌です。どうして俺が」


 「そりゃもちろん君が扱い・・・じゃなかった。私より知識があるからだ」


 オイ、今この人扱いやすいからって言おうとしませんでした?

 そりゃ、俺は日本史のテストだけはほぼ毎回100点だが。

 先生は続ける。


 「それに先生はな、明日から海外に行かねばならないのだ」


 「それ、旅行とかじゃないですよね?」


 俺は念のために聞いた。


 「も、もちろん!仕事に決まっているだろう!」


 怪しい。非常に怪しい。この驚きよう。


 「本当ですか?」


 俺は先生の目をじっと見ながら聞いた。


 「・・・・・」


 無言だった。はぁ。しょうがないな。


 「分かりました。けど、ただ働きはしません」


 「もちろん見返りは用意するつもりだよ。そうだな、例えば二学期の日本史のテストは問答無用で100点扱いとする、とかな」


 ほう。テストをいちいち受けなくてもよくなるというわけか。


 「・・・それでいいです。三週間でしたっけ?」


 「ああ、そうだ。それで補習の生徒なのだが・・・」


 「どうかしましたか?」


 先生はどうしてか分からないが言い淀んでいる。


 「実は・・・・・・・・・・一人なのだ!」


 「ああ、はいはい。・・・・ちょっと待って?今、何と?」


 「だから、一人なのだ!」


 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 つい大声をあげてしまった。何だそりゃ!?どうして一人のために補習をやらなければならんのだ!


 「あ・・・すみません」


 周りの先生が何事かとこっちを見ていた。くそ、この人のせいだぞ?

 俺は率直な疑問を投げかけた。


 「どうしてその一人のために補習やることにしたんですか?」


 「あの子はな、少々・・・いや。かなり面倒な生徒でな。だからマンツーマンで教えた方がかえっていいかもしれないと思ったからだ」


 「ちなみにテストはどんくらいなんですか?」


 「毎回のテストで20点を以下なんだよ。だから君にはぜひあの子が50点、いや。百点を取れるような授業をしてほしい」


 先生はやれやれといった感じで肩をすくめた。


 「はぁ・・・。マジですか」


 それはかなり厄介そうだな。マジめんどくせぇ。


 「まぁ、補修は朝の10時から1時間半だ。間に合うように学校に来てくれればいい」


 「内容は俺が勝手に決める感じですか?」


 「君が習ったところまでだな。よろしく頼む」


 先生は両手を合わせて頭を下げた。この人、無駄に美人なんだよな。


 「まぁ、分かりましたよ。けど、成績が上がるかは保証できないですけど」


 「何を言う。君ならば大丈夫だ」


 「俺のことを過大評価しすぎですよ」


 テストの成績がよくて、知識もあるからといって教えるのも上手いとは限らないだろう?実際、俺はそこまでコミュ力が高いわけではない。


 俺は軽く一礼して職員室を後にするのだった。

 

 あっちーな。今日も。先生はいいよな、毎日空調効いた部屋で仕事できて。


 ****


 そうして向かえた夏休み初日。俺は朝9時に目を覚まし、朝食を済ませて家を出た。自転車に乗っていても風は熱を帯びていて、全く気持ちよくない。


 15分ほどで学校に着いた。グラウンドでは野球部を始めとした運動部が声を出しながら練習に励んでいた。


 「熱心なこった」


 俺は土間で靴を履き替えた。と、そのときあることに思い至った。


 「教室、どこだ?」


 どこで行うことになっていたか知らなかったのでとりあえず職員室前の掲示板に向かった。すると、2年C組の横の空き教室で行うと書かれていた。何で教えてくれなかったんだよ。適当だな。


 俺は二階の職員室からさらに一つ上へ上がって目的の教室に向かった。ちなみに2年C組は俺が所属しているクラスだ。どうでもいいな、そんな情報。


 俺は目的の教室に着くと、ゆっくりとドアを開けて中に入った。


 「あー、どうもー。今日から—」


 俺が一応あいさつと自己紹介しようとしたとき、すでに到着していた生徒が口を開いた。


 「ねぇ。あなた、誰?」


 透き通った声の主の方に目を向けると・・・


 「お、お前は・・・」


 そこにいたのは、学年の間で美人と有名だった弓道部の少女。


 弓宮朱里ゆみやあかりがそこにはいた。


 

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日本史の先生代理になった。面倒な生徒に恋をした。 蒼井青葉 @aoikaze1210

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