どこまでも生々しい日本版ドラゴン学

 イギリス・ドイツ産のワームに目を見た相手に畏れさせるワイバーン、ナッカーホールに住むナッカーやコカトリスなどなど......とドゥガルド・A ・スティール『ドラゴン学』シリーズの日本版を思わせる作品でドラゴン好きにはたまらない傑作でした。
 しかし、ドゥルガドが翻訳した(という設定の)ヨーロッパのドラゴン研究者の視点で描かれている『ドラゴン学』とは異なり、観客向けに『ジュラシック・パーク』シリーズで山羊をT-REXの檻に放り込むような演出をする、高い宝石は用意できないのでレジンで代用するなど、どこまでも日本的な仕事が続く点が外連味があって楽しめます。それだけではなく糞掃除から寝藁の手入れといった飼育員特有の仕事と悩み、ワームの発音など慣れない作業を獣医学部出身者や熱意ある飼育員に囲まれて行うという“不思議”かつ“どこかにあり”そうな仕事を、“普通”の公務員である主人公の目を通すことで感情移入しやすくなっており、ドラゴンだけに目から鱗でした。
 他にもファンタジー作品では取り上げられ難いドラゴンが及ぼす影響(高熱の燃える糞尿を出す、井戸を使って自慰行為をして毒の精液で水脈を汚すなど)についても取り上げられているのは魅力的です! 
 それだけではなく、ドラゴン退治の英雄が持つ不可思議な理不尽さ(ドラゴンの死と引き換えに改宗を迫る聖ゲオルギオス、地上にサタンを不法投棄する大天使ミカエルなど)やドラゴン退治の武器(聖ゲオルギオスは槍、聖マルタは尖った十字架、ラムトン家の息子は棘付きの鎧など)がファンタジーでの定番の剣ではないこと、バジリスクの誤訳から誕生したコカトリスなどの文化が伝播する中で発生したドラゴンを人間を伝って広がる中で変異していった種として描くなど、ドラゴン好きにはたまらない演出がなされています。
 また、『ハリー・ポッター』シリーズに登場するバックビークとの出会い(お辞儀をして礼儀を通すこと)やドラゴンキーパーという職業(ロン・ウィーズリーの兄、チャーリー・ウィーズリーがルーマニアのドラゴン保護区で務めている仕事)など、さまざまなファンタジー作品への愛を感じ取ることができました。(これは個人的な考えですがホオジロザメを思わせる目をした白龍の富士山に、ジョーズをモチーフにデザインされた「青眼の白龍」の要素を感じました)
 『ドラゴン学』シリーズを読み耽り、ヨーロッパドラゴンこと、ドラコ・オッキデンタリス・マグヌスの組立てモビールを窓辺にぶら下げてドラゴンが窓を開けて自分のもとに訪れることを祈っていた、白馬の王子を待つ少女のような少年時代を過ごした自分の心にはグサりと刺さる作品でした。
 ここまで長々と書いてきましたが、あくまでもドラゴン愛好家である自分が感じたものなので、流していただいても結構です。ですが、どんな人が読んでもこの作品は楽しめると思います。
 ドラゴン、ファンタジー、お仕事小説、青春......さまざまなエッセンスが絶妙に混じり、ドラゴンが現実にいるような錯覚に陥ってしまう傑作です。ファンタジーは苦手という方も読みやすい文体で書かれているので食わず嫌いせずに読んでみてください‼︎ そしてドラゴンにハマりましょう‼︎ ドラゴン最高‼︎ ドラゴン最高‼︎ ドラゴン最高‼︎

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