ドラゴンキーパー

ももも

赴任先はドラゴンパーク

第1話 赴任先はドラゴンパーク

「将来の夢はなんですか」という質問に、周りの子がケーキ屋さんとか野球選手と答える中、俺は「ヒーローになることです」と答えていた。

 頼りになる仲間とともに戦い、どんなピンチでもとっさの気転で逆転し悪を打ち倒すヒーローは憧れの存在で、大人になればきっとなれると信じていた。


 でもいつの頃だろう。

 夢と現実の境目に気づいたのは。


 学校で自分は特別優秀ではないと感じた時だろうか。

 模擬試験の結果を元に、学力に見合った志望校選びをしなくてはいけない時だろうか。 

 成長とともに現実という壁にぶち当たって、夢で包まれていた部分が剥がれ落ち、俺という人間は本来こういう形なのだと知るごとに、不安が焦燥感へと変わり、いつしか諦めに変わった。


 夢から覚め、路線変更した先は公務員。

 東京での大学生活も悪くはなかったが、なにぶん、あのギラギラした都市に一生いられるかというと答えはノーだ。俺はブラックや出世争いとは無縁の世界で、のんびり暮らして生きたい。不況に強く安定した収入が得られる公務員はまさに天職だ。平坦な道を目指した地道な努力が実り、この度晴れて地元の市役所に受かった。



 そうして迎えた、入庁式。

 例年ならば背後にお偉いさんがずらっと並ぶらしいが、今年は新型感染症の影響で必要最低限の人数しかおらず閑散としている。

 そんな状況でもトップの話というものは必ずあるもので、マスク姿の市長の長い話をあなたの話をちゃんと聞いていますよと真面目な外面でアピールするという就活で鍛えられたスキルを発揮しながら、会社じゃないから入社じゃないのか、とか別のことを考えていた。

 はっきり言って、祝辞を述べるという任をもった成績トップ者以外の、ここにいる同期56名のほとんどはこの式の最後にあるイベントのことしか感心がないに違いない。


 赴任先の発表だ。


 どこに所属するかで、これからの社会人ライフが決定づけられるといっても過言ではない。場所によっては例のアレでかなりの激務だと噂が立っている。けれどそんなところへ配属されるのは見込みのある新規採用職員だろう。試験での成績は中の下だと思う。上でもなく下でもない。俺の人生はいつも真ん中をキープしてきたはず。だから楽な課に回してくれと終始願っていた。


 ついに式は終盤を迎え、順番に名が呼ばれ席から立ち上がり壇上にあがると赴任先が一人一人言い渡される。

 俺の名前も呼ばれ、はいっと返事し中央へ向かう。

 市長の隣にいる、人事課のお偉いさんらしき人物が賞状のようなものを広げ、俺の顔を確認してもったいぶって頷いた。


 「河合悠斗、観光課のドラゴンパークへの赴任を命じる」



 後から考えれば、マスクをしていて良かったと思う。

 でなければ、俺は今まで生きていたなかでもベストアホ面をさらしていたに違いない。

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