第3話:魔術と錬金術・アイリス視点

「マイラ、他に何か面白い本はないのですか。

 帝王学の本や魔導書なんて全く面白くありません。

 せめて神話の本はありませんか」


 私は必死で字を覚えました。

 とは言っても字や数字を覚える事はそれほど難しくありません。

 問題は単語と語彙です、単語の意味を覚えるのが大変でした。

 単語と現実の現象を結び付けるには誰かに説明してもらわなければいけません。

 しかも外に出ることなく極力室内でです。


「お嬢様は忘れてしまわれていると思いますが、神に関する本は神殿しか所有する事を許されていません。

 どうしても神話の本が読みたければ神殿に参拝しなければいけません。

 ですがまだお嬢様を呪殺しようとした者が捕まっておりません。

 危険です、参拝する事はお止めください、お嬢様」


 マイラが必死で止めてくれますが、参拝する気など毛頭ありません。

 元のアイリスを呪殺した人間に元気な姿など絶対に見せられません。

 いえ、それ以前に屋敷を出るなど絶対に嫌です。

 単語と現物の意味を結び付けるために、仕方なく屋敷内は歩くようになりました。

 ですがそれもどうしても必要な場合に極力人のいない時間を選んでです。

 できるだけ私の部屋に現物を運んでもらって単語と結びつけています。


「やはり死にかけても我儘は治っていないな」

「今度は呪殺されかけたのを理由に部屋で我儘放題だわ」

「まあ、俺達に被害が及ばないだけマシになったとは言えるわね」

「ああ、そうだ、打擲されなくなっただけマシだな」

「その分マイラ達に負担がかかって可哀想ね」

「気にする事なんてない、そもそもあんな我儘に育てたのはマイラ達の責任だ」


 公爵家の家臣や使用人が言いたい放題です。

 引き籠りの地獄耳を舐めてもらっては困ります。

 家の中に誰もいない事を確認してトイレに行くため、異常に鋭くなったのです。

 それにしても、この身体の元に持ち主は最低ですね。

 気に喰わない家臣や使用人を鞭打ちにしていたというのですから。


 でも、まあ、私には関係ない事なので気にしません。

 家臣や使用人が元の身体の持ち主を忌み嫌い悪口陰口を言おうと関係ないです。

 そもそも他人の言う事が気になって行動を変えるような性格なら、最初から引き籠りになっていません。

 

「では何か面白い本はありませんか。

 できるだけ私一人で読める本です。

 いつまでもマイラ達に負担をかける訳にはいきません」


 思いがけず優しい言葉をかけられたからでしょう。

 マイラが喜びの涙を流しています。

 まあ、話に聞く前の身体の持ち主なら絶対に口にしない言葉ですからね。

 ですが私の別に本気でマイラ達を気遣ったわけではありません。

 できるだけ一人になりたかっただけです。


「ではお嬢様、魔術と錬金術の本はいかがでしょうか。

 魔術と錬金術の本でしたら、色々と結果に表れて楽しいと思われます」


 乳姉のバルバラが横から口出ししてきた。

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