第9話:焦り・ラミーユ王太子視点
「何をしているのだ、直ぐにでも呪殺を行うのだ。
このままでは大陸連合魔術学院から講師が来てしまうぞ」
何とかしなければいけない、何とか。
このままではアイリスと結婚させられてしまう。
あんな極悪非道な女が王妃になってしまったら、この国は破滅だ。
今までも多くの令嬢が犠牲になっているのだ。
今私が何とかしなければいけないのだ。
「ラミーユ王太子殿下、無理をなされないでください。
どれほど呼び出してもヴィゼル公爵閣下が王宮に来られないと聞いています。
王都や領地でも兵を集めているとも聞きます。
殿下が直接手を下されるのは危険過ぎます。
これまで通りアイリス嬢の被害者に密かに支援されて、彼らが復讐する形をとられてください、お願いします」
「ああ、ありがとう、カリーヌ、私を心配してくれるのだね。
大丈夫だよ、証拠を残すような愚かな事はしないよ」
何としてもアイリスを殺すのだ、絶対に殺すのだ。
殺さなければあのアイリスの事だ、私がカリーヌに心寄せていると知ったら、どのような悪辣な手段を使ってでもカリーヌを自殺に追い込むだろう。
「お兄様、私が王立魔法学園の学園長を呼び出します」
「クララ、お前が表に出るのは危険だ。
ヴィゼル公爵は名君と評判だが、アイリスに関する事だけは暗愚になる。
王家の者が係わる場合はヴィゼル公爵家との戦争を覚悟しなければならない。
さっきは私も狼狽してしまって愚かな事を口にしてしまったが、私が表に出る事はない、だから安心してくれ」
妹のクララを巻き込むわけにはいかない。
やるなら自分だけでやらなければならない。
魔力量だけでいえば王立魔法学園のどの講師よりも私の方が上だ。
誰かを撒き込んで私の加担がヴィゼル公爵に知られるくらいなら、術は未熟でも魔力量の多い私が直接アイリスを呪殺した方が確実だ。
「分かりました、ですが何かなされるのなら、私にも教えてください。
事は王国の大問題なのです。
アイリスのような悪女が将来王妃になってしまった、お兄様は毒殺されてしまわれ、国民は悪政に苦しむことになります。
そんな事になると分かっていて、見過ごす事などできません」
クララは私のやろうとしている事を見抜いているようだな。
クララに隠れてアイリスを呪殺する準備ができるだろうか。
「ラミーユ王太子殿下、私も手伝わせていただきます。
アイリス嬢がどのような方なのかは、王都の噂で聞いておりました。
被害を受けた方や遺族の方からも直接お話を聞く事ができました。
聖女と呼ばれる私のする事ではないのかもしれませんが、黙ってはいられません。
魔力量なら私も誰にも負けませんよ。
三人力を合わせてこの国も悪を取り除きましょう」
「カリーヌ、ありがとう。
クララもありがとう。
分かった、三人でこの国を蝕む悪を討とう」
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