expansion14 鳥鳥 その14【終】
恋敵の言葉――、
魔女という言葉に、俺も同意の感情を抱く。
恐らく恋敵にとっての魔女というのは、
鯱先輩の言葉、行動、考え、その非道さから出た言葉なのだろうが、俺は少し違う。
いや、まったく違うな。
俺にとって、鯱先輩のことを魔女と思ったのは、
鯱先輩は魔法でも使えるのではないか、と思ったからである。
人間をペンギンに変える――魔法と言えるだろう。
オカルト研究会というのは、
魔法を研究している、とか、そういう内部事情なのでは?
「魔女、ねえ――、意外にも的を射ている答えはではあるけどね。
それでどうするの? 魔女である私に、なにをするのか、
見せてもらえるとありがたいけど。
許せない? だったら、殴りかかってくればいいんじゃないかしら?
その体で、ペンギンの体でね」
ぐっ、と言葉を詰まらせる恋敵を横目で見ながら、俺は考える――。
許せない、ことは確かだ。
しかし、ここで鯱先輩を殴っても、状況は良い方向には転がらないだろう。
殴って、なんだ。
それで解決すれば、進んでやるけど、そんなことはないと言える。
問題として――いまは、理々をどうするか、である。
父親はもう死んでいるし、
船の中にいた仲間も、俺のせいで死んだだろうし。
家に帰れば父親以外にも、家族というものはいるのかもしれないが――、
だが、俺には理々を、どうにかすることはできないのだった。
家、と言っても、分からないし。
「鯱さん――理々を任せてもいいですか?」
「うん? 私に?
それは、君の役目だと思うけど。
だってバツ君が助けたんでしょう?
バツ君が他の全員を殺して、理々を一人にしたのでしょう?
なのに、ここで私に渡すの? 押し付けるの?
そんなこと、あなたにできるの?」
「…………俺には、どうすることもできないので、だから頼んでいる、んですけど」
「嘘よ、嘘、ごめんね、脅すようなことを言って――。
そうね、あなたじゃ理々を養うことはできないでしょうし。
だったら、一つ提案があるのだけど――バツ君、
オカルト研究会に入ってくれないかしら。そして、私の仲間になってくれないかしら」
……全てが予想通り。
これは俺の勘が、いまだけ鋭いのか。
それとも誰でも分かってしまうような予測を、
あえて鯱先輩はやってきているのか――、
分からないが、しかし俺に、選択肢というものは、なかった。
口を開き、答えを返そうとした時――、
俺の言葉を潰し、恋敵が俺の前に出る。
「ふざけんな! 誰がお前なんかのところにいくかよ――、
魔女に身を売るくらいなら、路頭に迷った方がマシ――」
「いや、恋敵、大丈夫だよ」
魔女――いや、間違えた、
魔女ではなくて。
鯱先輩の表情が、どんどん厳しくなっていることに気づいてしまった俺は、
これ以上、恋敵を暴走させておくと、さすがにまずいと思った。
暴走を止める。
恋敵は、俺のために言ってくれているのだろう。それは分かる――だが、
いまここで、うだうだと言っても仕方ない。
どうせ、オカルト研究会に入るだけだ――、
死ぬわけじゃないのだから、受け入れることはできる。
「いいでしょう――入ります」
「それでこそ、バツ君」
鯱先輩は、そう言いながら微笑んだ――、
その表情を見れば、普通の、大人の女性に見えるが、
まあ、実際、大人の女性ではあるのだから、見えるのは当然だ。
「あなたは、どうするの?」
鯱先輩は、恋敵にも聞いた――、
恋敵は歯噛みして、無理しなくてもいいぞ、と、
俺が声をかけようとしたところで、しかし、俺が声をかけるよりも早く、
恋敵は答えを出した。
「――入る」
そう言った。
「理々のために、お前の部下になってやるよ」
「――バツ君だけじゃないわね、
あなたも面白いわ。ペンギンの姿だから尚更、ね」
不気味に笑う鯱先輩は、俺と恋敵と理々を海から引き上げて――、
鯱先輩が乗ってきたボートに乗せる。
子供に、ペンギン二羽であるから、
一人乗りだけど、余裕で乗ることができた。
「それじゃあ、早く帰りましょう――、
色々と厄介なことに巻き込まれないようにしなきゃね。
ねえ、そうでしょう――犯罪者さん」
そう言って、鯱先輩は俺をからかってくる。
どうやら、このネタは一生、使われるものなのだろう。
彼女の微笑みから、それが分かった。
でも、いいのかもしれない――、
ちょうどいいのかもしれない。
定期的に言われていないと、
俺は千人以上の人間を殺した、なんてこと、
すぐに忘れてしまいそうだから――。
5分でいっぽん:即興小説集 渡貫とゐち @josho
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