舞いし炎。飛ぶは空。
ふわり
序章 陽の沈まない暗闇の世界
人類の頭脳を恐ろしいと感じることがある。長い歴史の時間軸の中では、あっという間に過ぎゆく百年の月日。その僅かな百年で、ありとあらゆるものを変化させる能力を持っている。この物語はその百年後の世界を描いている。
開発されたありとあらゆるものには人工知能が割り当てられ、人の生活圏に次々と組み込まれていった。それは自動運転なんかの次元を有に超えていて、ほとんど人のやるべき事は無くなっていた。例えば近所のスーパーやコンビニエンスストア、飲食店なんかに入ってみると、出迎えてくれるのは見た目には人と全く遜色のない人型の機械だったりもする。むしろこの国においてはその人型の機械が主流ともいえる。百年かけて磨き上げた技術の結晶は、人間として生活する人型の機械を誕生させていた。そんな血の通わない現状に人々はどのような反応を示しているのだろうか。初めの頃は大いに喜んでいた。それもそうだろう。仕事は極限にまで簡素化され、厄介な要件は人型の機械に任せればいい。家庭内での家事なんかも全て、その人型の機械が請け負ってくれる。人間の弱みとも言えるのだろうが、生活が著しく楽になることに喜びを感じられずにはいられなかった。しかし、徐々に機械に侵食されていく日常を暮らすうちに、違和感を感じはじめた者も少なくはなかった。それもまた当然のことだろう。進歩は時として恐怖にもなりうる。ゴミ捨て場で、朝の挨拶を交わした近所の奥さんが、実は人型の機械なのかもしれないのだから。
つまり、この世界における機械はもはや人間なのだ。人間と同じく仕事をして、人間と同じく家事をする。友との語らいや同僚との会食。休みの日には綺麗な景色を見るためにドライブに出かけ、喫茶店で温かい紅茶を飲む。それは人間以上に人間を演じている。それでいて、人間の何倍も優れた能力を備えている。寸分違わぬ計算ができる。秒単位での行動ができる。細部にまでこだわった作品作りができる。いったいこんな機械をどのようにして作り上げたのか、そんな事は誰にも分からない。
ここスカーデッド王国は機械文化が特に進んでいる。例の人型機械による効率的産業によって財を築き、瞬く間に発展した国だ。独特の雰囲気を醸し出している首都アクアストールでは、その日もいつもと変わらないニュース番組が放送されていた。人なのか人型機械なのかもわからないニュースキャスターが素敵な笑顔で画面越しに情報を伝えてくれている。
「次は空の情報です。アクアストールとロギレンスの丘。グレリレンズ地方を除く全ての地域で午前十時と午後四時から三十分間雨を降らせます。
この国ではいつものことだ。何故かは分からないがこの国では常に太陽が高々と昇っている。この国の王はよっぽど夜が嫌いなのだろう。大金を費やして
天気予報が終わってから数分が経った頃、突然テレビの映像が切り替わった。テレビだけではない。ビルに貼り付けられている液晶パネルなども全てだ。そしてすぐに大きな警報が鳴り響いた。画面に映し出されたキャスターは警報が鳴り止むと同時に状況を国民に伝える。
「皆様速報です。約十五分後に非常に大きな地震が発生します。直ちに指定の避難区域へと避難してください。繰り返します。」
経験したこともない大きな地震がアクアストールを飲み込んだ。こんな風に日常はあるとき、何の躊躇いもなく壊されてしまう。跡形もなく消え失せた無数の建物。辺りには瓦礫が散らばっている。その下に埋もれているのが、人なのか人型機械なのかは分からないが、たくさんの命が消えたことに変わりはない。スカーデッド王国が誇った首都アクアストールは一瞬にして荒野と化した。生き残った民たちにとってせめてもの救いは、アクアストールの中央に聳え立つ王の宮殿サウンズロッドが無事なことだろう。傷一つ無く、変わらず聳え立ったままであり、おそらく王は無事に違いない。しかしそう感じているものだけが全てではない。そのサウンズロッドを鋭い視線で見上げる女が一人いる。彼女もまたその強い意志を胸に秘め、崩れ去ったアクアストールに聳え立っているかのように見えた。
人が百年かけて築き上げた物も崩れ去る時はあっという間に消えていく。そしてこういうときに生き残るのは二種類の人間だと思う。一つは強い権力で間違いを犯す者。そして、もう一つは強い意志で間違いを正そうとする者。サウンズロッドとそれを見つめる女。戦いはここから始まるのかもしれない。
舞いし炎。飛ぶは空。 ふわり @huwari0915
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