第3話 嫉妬にピンチ

嫉妬にピンチ





「おい! 千琴と登校するなんてどういうつもりだ?」



いやいや、お前こそどういうつもりだよ! 人様の大切な読書タイムの邪魔しやがって。


二時限目が終わり、長い休み時間が始まった直後だった。

クラスの人気者、寺田 達也が、俺の席の前に立っている。



「時間がたまたま同じだっただけだ。なんのつもりもない」



「そうか。お前が狙って時間を合わせたんじゃないのか?」



「それはありえない。目立つ千琴と一緒に登校するのは、人見知りの俺には辛いからな」



千琴は、性格が良いらしく、とても可愛いのでファンクラブがあるくらい人気者だ。そんな子と毎朝歩くのはマジで辛い。


達也は、俺の言葉をまだ疑っているようだったが、仲間達の方へ振り向き、ゆっくりと歩き出した。



「あっ、そうだ。俺の千琴に近づくなよ」



達也は、俺にだけ聞こえるようにそう言い残した。


危険だ。間違いなく、この男は危険だ。俺は、電車に乗り遅れるのも嫌だったから一緒に電車に乗ったのだ。それに嫉妬するなんて・・・・・・怖い。


しばらくの間、達也の嫉妬による攻撃パターンを考える。


達也のことだ、悪い噂を広めるのだろうな。いや、仲間を連れて物理攻撃を仕掛けるかもな。


母さんに心配させないような対処方をねっていると、ある事に気が付く。


達也の野郎、俺の千琴って言ってたな。それはどういうことだ? 千琴と付き合っているのか?


初めての感覚に、心の中がザワついている。

そのまま休み時間は終わってしまった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



四時限目が終わりを迎えようとしていた。

黒板に答えを書いていた千琴が、自分の席に戻る時、俺の席の横をわざわざ通った。


机を見ると、綺麗に折り畳まれた小さな紙切れが置かれていた。千琴が置いたのだろう。

俺はそれを広げる。



「・・・・・・・・・」



それには、綺麗な字でこう書かれていた。


『授業が終わったら屋上へ来て下さい』


これを待ち合わせと言うのか分からないが、女子と待ち合わせした経験が無いので、少しドキドキする。


相手が、千琴だからドキドキしている訳ではない。


正直、面倒臭いのだが、聞きたいこともあるので行くことにした。

騒がしい廊下を抜け、埃だらけの階段を上る。



「なんかようか?」



千琴は、長い黒髪を風になびかせていた。



「ご飯、一緒に食べませんか?」



無意識に、弁当を持ってきてしまった。これじゃあ、一緒にご飯を食べる事を期待していたみたいじゃないか!



「俺は一人で食べ・・・・・・」



二度とないであろう申し出を断ろうとしたところで、言葉を止める。

いつも笑顔な顔が、不安に満ちていたからだ。



「やはり、私と一緒は嫌ですよね」



千琴は、そう言うと顔を伏せてしまった。

俺は、慌てて弁当を広げる。



「別に嫌とは言ってない」



恥ずかしい思いを隠すために、吐き捨てるように言う。そんな言葉に、千琴は目を輝かせる。



「ほんとですか! これからは毎日一緒にご飯を食べましょう」



「それは・・・・・・遠慮する」



昼飯なら達也と食えよ!


ふつふつとした不快感が溢れてくる。千琴が笑顔になる度に、俺に付きまとうな! という気持ちになる。



「夜君、私の卵焼き食べたいですか?」



千琴がそう言った瞬間、俺の中で何かがプツンと音を立てた。



「何で俺に笑いかけんだよ! 何で俺と一緒にいるんだよ!」



もう後戻りは出来ない。



「どうせお前は、人気者の達也と付き合ってんだろ! なのに、どうして俺に構う!」



自分でも、何を言いたいのか分からなかった。

イライラしている自分に腹が立つ。



「俺がいつも一人で惨めだからっておちょくってんのかよ!」



くそ、こうゆうところが人から嫌われる理由のひとつなんだろうな。



「私は、誰とも付き合っていませんよ」



え? ワンモアプリーズ。

ポカンと空いた口が塞がらない。



「私は、誰とも付き合いたくなくて、夜君に付き合う振りをお願いしたんです」



「なるほど。ちょっと死んでくるわ」



なんだろうな、すごく死にたい。恥ずかしいとかじゃなくて、死にたい。



「あれれ〜、達也さんに嫉妬したんですか〜?」



千琴は小悪魔キャラに変身した。


推しキャラがやると可愛いが、こいつはうぜぇ。嫉妬ではない、モヤモヤっとしただけだ。



「お詫びに、一緒に帰って下さいね」



「はぁ!? 何のお詫びだよ!」



「私、これでも怖かったんです。夜君に怒鳴られたのが」



千琴は頬を膨らませながら、弁当箱を開いた。どうやら、少しだけ怒ってるみたいだ。



「はいはい。仰せの通りに」



まぁ、今回は俺が悪かったしな。そんな事を思いながら、俺も弁当箱を開いていた。


不意に、こんな言葉が漏れた。



「・・・・・・弁当うまっ」



家族以外と食べるご飯は、思いのほか美味しかった。



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