第2話 登下校にピンチ

登下校にピンチ





目覚ましの音に目を覚ます。



「ふぁ〜。」



欠伸を噛み殺し、涙を浮かべる。

そう、俺の日常はいつもこのように始まる。


今日も平和に過ご・・・・・・・・・しまった!


俺は昨日、花崎 千琴と付き合う振りをする事になったんだった。


花崎 千琴は、二羽高校の一番の可愛さを誇る人気者である。中学時代も沢山の人に告白されたそうだ。

二羽高校五大美女のうちの一人である。


一方、この俺はというと、同じ学校の友達もいないので、毎日一人で本を読んでいる。

中学時代は、いじめっ子からモテモテだったな。


そんな俺が千琴と付き合うのか!? 付き合う振りだとしても、付き合うのかぁぁぁ!?

別に千琴が嫌いな訳では無いけど、人気者と一緒にいたら目立ってしまう。俺には辛いことだ。


俺の平和な日常が崩れる音が聞こえる。




俺は一階に降りて朝食を食べている。

ちなみに、今日のメニューは、ピザとトーストと目玉焼き、味噌汁だ。



「どう? 美味しい?」



「美味しいよ母さん」



「ふふっ。良かったわ」



俺の母さんは、花山 真美。三十二歳の天然である。

父さんの花山 和久は、単身赴任中なので家にはいない。


ピンポーン。


誰かがインターホンを押したようだ。



「誰かしらねぇ〜」



母さんは、頭にお花畑を咲かせて玄関に向かっていった。


俺はこの不思議な和洋食を食べ終わり、皿を片付ける。

いつも通り、学校に行く支度を整えていると、



「夜ちゃん、お友達? 来てるわよ」



俺の数少ない友達と言う生き物が、朝の六時に来るはずが無いと思いながら玄関の扉を開ける。



「夜くん、おはようございます」



そこに居たのは、俺の彼女役の花崎 千琴だった。



「あぁ、おはよう・・・・っておい! 何で俺ん家に来てんの? そして何で俺ん家分かんだよ!」



えっ、何でニコニコしての?

多分俺は、今まで生きたきた中で一番驚いてる。



「話せば長くなってしまいますよ? 早く駅に行きましょうよ」



「そうだな、電車を逃す訳にはいかないからな」



俺は急いで鞄やら財布やらを持つ。



「夜ちゃん、あの子誰?」



母さんは、ニヤニヤしながら聞いてくる。



「ただの友達だよ。急いでるから行ってくるね」



母さんに別れを告げ、陰キャと人気者という奇妙な二人組で駅に向かう。



「なぁ、何でお前はずっとニコニコしてんだ?」



俺より頭一つ分くらい小さい千琴は、家を出る時からずっとニコニコしていた。



「ふふっ。嬉しいからですよ♪」



千琴はニコッと笑って顔を上げる。


くっ! 危なかった。可愛すぎるだろ。


ちなみに俺の身長は百七十五センチだ。

それから考えると、千琴は百六十センチくらいだろう。



「夜君、私の事は千琴って呼んでくださいね」



「呼び捨て!? 悪いけど女子を呼び捨てした事無いから無理だ」



「何でも聞いてくれるって言ったくせに」



「あーもう分かったよ!」



「ほんとですね! 千琴って呼んでみて下さい」



ニコッじゃねぇよ。可愛いから許すけどさ。



「また今度な」



俺はそう言って歩くスピードを上げる。



「ちょっ、待って下さい」



俺の家から駅まで歩いて二十分かかるのだが、今日はあっという間に駅に着いてしまう。

改札を通り電車に乗る。

いつも通りの端っこの席に座る。



「よいしょっと」



「待て、何で当たり前みたいに俺の隣ってんだよ」



俺の言葉に千琴は暗い顔をする。



「私の事・・・・・・そんなに嫌いですか?」



「嫌いじゃねぇよ。てか、俺みたいな奴に嫌われても別に大丈夫だろ」



「私は、大丈夫じゃないです」



千琴は、すごく小さな声でそう言った。

その言葉を最後に会話は終わった。


何だろう、すごく気まずい。


千琴の方をチラリと見ると、千琴は自分の手を握ったり離したりを繰り返していた。


モジモジすんなよ! 余計に気まずいだろ。



「あっ、そうだ。今日の給食何だっけ?」



「えっ? いつもお弁当だよ」



しまったぁぁぁ!! 俺とした事が、焦って変な事を言ってしまうとは。一生の不覚。



「ふふっ」



千琴の笑顔が見れたから良しとしよう。ってアホか! 何で俺が千琴の笑顔を求めてんだよ。



「あっ、着きましたよ」



「忘れもんねぇか?」



「無いですよ、いくつだと思ってるんですか」



この駅から学校までは三十分。

学校に近ずくにつれてうちの学校の生徒が増えていく。



「二人で歩いてるの恥ずかしいですね」



「お前のせいだろ! てか何で俺を選んだんだよ!?」



「選ぶ?」



「恋び・・・・・・耳貸せ」



大声で恋人役なんて言うとまずいので、小声で言うことにしよう。

千琴は恥ずかしそうに髪を耳にかけている。

俺は少し屈んで千琴の耳に口を近ずける。


いい香りがする。


千琴の小さな顔は赤くなっている。



「何で俺を恋人役に選んだんだ?」



「それは・・・・・・夜君が千琴って呼んでくれたら教えます」



「じゃあ後でいいや」



また気まずい沈黙が続いてしまった。

俺達はそのまま教室へ入り、それぞれの席に座る。

ちなみに、千琴の席は俺と同じ一番後ろの列にあるが、正反対の位置にある。



「千琴ちゃん。何であんな奴と登校して来たの?」



千琴の周りに、陽キャ女子共が祭り事かの如く騒ぎ立てている。


暇だからあの女子共の言葉を翻訳して遊ぼう。



「ほんとだよ〜。あんな奴といたら病気になるよ」



マジであの陰キャヲタクといたら死ぬよ。



「千琴みたいな可愛い子があんな陰キャといたら駄目だよ!」




千琴みたいな超絶可愛い子が、キモすぎる俺といたら世界が終わるよ!



やべぇ。自分で言って、自分で萎えてきた。



そんな俺に、千琴は笑顔を向けてきた。

その笑顔にどういった意味があるのか分からないが、とても可愛いので良しとしよう。



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