第2話 正体不明の何か
膝まで覆う
「鬼なんていない。あれは人間だ。人間なら、切り捨てることができる」
まるで自分に言い聞かせるように呟くと、璙雲はゆっくりと
(絶対にあれが人間だと証明する)
心に覚悟を刻み込み、璙雲は廃墟の扉を押し開けた。一歩足を踏み入れると、警戒の目を四方に巡らせ、上下にまで意識を張り巡らせる。誰が近づいても即座に対応できるよう、剣の
内部は外観と変わらない荒廃ぶりだった。蜘蛛の巣が張り巡らされた天井、塗料が
「……?」
昨日、自らがつけた足跡を辿りながら回廊を進んでいた璙雲は、ある地点で足を止めた。足跡が途中で途切れているのだ。それも残っているのは自分の足跡のみで、背中に触れた子供の足跡はどこにも見当たらない。
(やはり、体重が軽すぎて跡が残らなかったのか?)
そう考えた瞬間、前方から木が
「誰だ?」
穏やかに璙雲は問いかけた。その声には怒気は含まれていない。驚かれたのは
しかし、人影は答えない。距離が縮まるにつれ、鼻をつく異臭が強まった。肉が腐敗した臭いと青草の匂いが混ざり合ったような、不快極まりない臭いだ。
「これはお前の悪戯か?」
璙雲の声に応えるように、人影が腕を伸ばした。その指は白くふやけ、爪は所々剥がれて肉が露出していた。さらに、その体は熟れすぎた茄子のように異様にふくれていた。
(これは悪戯ではない。……人間ですらない)
本能が警鐘を鳴らす。璙雲は薄闇を裂くように剣を振るった。
しかし、手応えはない。霞を切ったような感触だけが
「やめて」
涼やかな声が耳元で囁いた。
(仲間がいるのか?!)
振り向こうとするが、身体は金縛りにあったように動かない。どうにか目だけを動かし、声の主を探る。
璙雲のすぐ横には、鬼の面をつけた女が立っていた。声はまだ幼く、女というより少女と呼ぶべきだろう。
「あの人は私のお客様。あなたが手を出すことは許さない」
冷たい声が鬼の面から響いた。
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鬼鏡秘譚 萩原なお @iroha07
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