もうひとつ、書き加えよう。

 色々とね。精神病の方のエッセイとかを読み漁りましたよ。カクヨムのも、そうでないのも……書籍とか……ね。


 それを読んで思ったことが、ひとつ。


 皆さん優しいんですよね。すごく。人の気持ちに寄り添える。多分、ですけど、「寄り添い過ぎて壊れている」


 まぁ、統計とったわけじゃないし、あくまで僕の主観だし、エッセイの書き手の人たちからしたら「そんなことないよ」と言われそうですが、まぁ僕から観測して言えることはそれなんです。「みんなすごく優しい」「人の気持ちに寄り添えるなんてすごい」


 僕は、ハッキリ言って、人間含め動物が一切駄目です。駄目というか、あまり接したくない。観察したり鑑賞したりする分にはいいんですけど、僕という個に関わってほしくないというか、こっちに来ないでほしい。


 まだ二十代ですが歳をとるにつれどんどんその感情というか、拒否感は強くなる。


 心理学をやっていました。そのことは前話でも触れましたね。心理学は「人間を科学する」学問です。なので、「研究対象としての」人間は、まぁ、好きでも嫌いでもありません。観測対象にそこまで肩入れしてたら疲れるだけ。


 回りくどい言い方でいやらしいですね。もっと分かりやすい話にしましょう。


 どいつもこいつも僕にとっては実験用モルモットと一緒なんです。多分、妻でさえ。あんなに僕のことを支えてくれて僕の生活の面倒まで見てくれている妻でさえ、どこかで拒絶している。


 でも多分、妻もそのことは分かっています。僕は、「分かってくれる」妻に感謝しています。変わろうと思っています。人間のことが好きになれる、もっと優しい人間になりたいと思っている。心からね。少なくとも妻一人くらいは大事にしたい。こんな自分じゃ駄目だと思っている。だから、病気になったのでしょうが。


 いくつ属性を付け足すんだ、と思われそうですが、ここで大学時代のエピソードをもうひとつ。


 犯罪心理学の講義で、のことでした。


「反社会性パーソナリティ障害診断の日本版。通称DTDD-Jについて」


 反社会性パーソナリティ障害の診断テストの簡易版を、講義で行いました。自分が「反社会性パーソナリティ障害か否か」つまり、すごく平たく分かりやすい言葉で言ってしまえば「サイコパスか否か?」を判定するテストです。


 確か、三六問。質問項目に答えました。教授の指導の下ね。


 結果、引っ掛かりました。正式に……教授は「講義でやったものだし簡易版だからあくまで傾向しか分からないよ」と言ってはくれましたが……僕は反社会性パーソナリティ障害であることが分かったのです。


 つまり犯罪者予備軍。そんな烙印を押されました。


 本当は、厳密に言うと反社会性パーソナリティ障害がみんな犯罪者予備軍かというと違うのですが、一般的には「サイコパス」と呼ばれる人間です。どういう人間か、想像がつくでしょう。それに自分が当てはまる、と言われたら、どうでしょう。あくまで、想像するしかないんでしょうけど。


 反社会性パーソナリティ障害の特徴をいくつか述べましょう。


 極端な共感能力の欠如。

 過剰な集中力と、やり遂げる力。

 外見上、上っ面だけの魅力。

 口達者。

 ナルシシズム。それも異常な。

 人間関係を操作しようとする、あるいは操作できると思っている。

 冷淡。

 後先考えない衝動的な行動が多い。


 気になったら「ダークトライアド」で検索してみてください。もっといっぱい出てくると思います。ネット上でも簡易検査できるんじゃないかな。やってみることは、あまり勧めませんが。


 上記の特徴ほぼ全て、身に覚えがあります。共感力は低いです。だから、「人の表情を読む」訓練をした。そうじゃないと「相手が何を思っているのか全然分からない」から。過剰な集中力。やると決めたら周りが見えなくなります。外見上、上っ面だけの魅力。そして口達者。僕は昔、人付き合いにおいてよく、「こんな嘘に引っかかるなんてどいつもこいつも馬鹿だ」と思っていました。ナルシシズム。そうじゃなきゃ小説なんて書けないでしょう。自己肯定感は低くてもどこかで自分に酔ってるんですよ。人間関係を操作する。コントロール意識は強いです。先述の通り、嘘やフェイント、はったりで相手を操ろうとする。冷淡。ドライだねってよく言われます。後先考えない衝動的な行動。高校、大学時代は色々な相手と……男性女性問わず……関係を結びかけました。


 中学時代。


 柔道部の主将をやっていた先輩に難癖つけられました。本当に、難癖。多分武道的観点に立つと僕の卑怯な行動が許せなかったのでしょう。何だか知りませんが怒られました。暴力を振るわれそうになった。


 土下座しました。ごめんなさい。反省しています。


 哀れだったのでしょうね。先輩は背を向けました。


 ローファーを脱ぎました。右手で持ちました……利き手は右手なんでね……。踵の部分が先っぽに来るように、逆手に持ちました。先輩が背を向けて完全に油断していることを目視で確認しました……それこそ、駅員さんみたいに指差し呼称するところでした……。


 先輩は、坊主です。柔道部なんて意味もなく坊主にするんです。


 ローファーの踵を後頭部に叩き付けました。先輩は前かがみになります。お尻の部分を突き出す形になる。その尻を蹴飛ばすと、先輩は頭から地面に突っ込みます。コンクリートに坊主頭で頭突きをすればそりゃ血も出ます。倒れます。馬乗り。ローファーで滅多打ち。もちろん踵の部分でね。先輩はおでこからも後頭部からも血を出す。というか、飛ばします。ちょっとした射精みたいにね。


 問題になりました。一応、僕は成績がよかったので、「優等生の異常行動」として見られました。担任から面談の申し込みがあったし、保健室の先生もわざわざ僕の様子を見に来ました。両親も先輩の親に謝罪したし、朝会で校長先生がそれとなく「暴力はいけません」ということを話しました。


 僕が悪いことになった。意味が分からなかった。難癖をつけたのは先輩の方。悪いのは先輩の方、というのが僕の理論です。まぁ、でも、過剰防衛だったかもな、くらいの気持ちはありました。どうやらやり過ぎたらしい。次はもっとうまくやろう。そう思いました。


 これが異常だったと気づいたのが、先述の大学で受けた犯罪心理学の講義の後のことです。


 まぁ、それなりに悩みましたね。元々生きづらさは抱えていた。自己肯定感は低かった。自分は存在してはいけないと思っていた。ここに来て、それが現実になった。本当に僕は「社会にいてはならない存在」であることが明らかになったし、生まれつき……まぁ、この特性は後天的だとする研究もありますが……社会不適合だった。


 酒を飲みました。元々自分を傷つけることは得意でした。意味もなく風邪薬をたくさん飲んだりね。頭痛薬か。どっちでもいいや。


 体調を崩しました。前話でも話しましたけど睡眠障害に加えアルコール依存症に片足突っ込んでいるような状態だったんです。この頃妻と出会いましたがそれも年の瀬の方で、反社会性パーソナリティ障害の講義は「学生の気を引ける」と思ったのかかなり初期の講義でした。ゴールデンウィーク直前くらいだったんじゃないかな。


 この年、研究室に配属されていました。僕が配属された研究室は、前話でも話しましたが大脳生理学の研究室。ですが教授は臨床心理士としての資格も持っていて、病院でカウンセリングなんかもしている方でした。


 すぐに見抜かれました。「飯田くん。明日の午後三時に研究室に来て」先生に直接そう言われたのを今でも覚えています。


「悩んでいるように見受けられる。話せるなら話してみてほしい。助けることはできないが、君が君を助ける力にはなれるかもしれない」


 そんなことを言われました。話しました。反社会性パーソナリティ障害の傾向がありそうだということ。自分は世の中にいてはいけないんだと思ったこと。


 先生は黙って話を聞いた後、いくつか本を……学術誌です。多分本屋では手に入らない……を見せてくれました。


「反社会性パーソナリティ障害でも向いている仕事は、ある」


 いわく。


 外科医……患者に感情移入することなく、淡々と切除や切開を行うことができる人間が向いている。何があってもやり遂げる精神も必要。

 経営者……非情な決断ができたり、損切などの判断力に優れる人間が向いている。他者をコントロールしたがる特徴も向いている。

 営業……何よりもコミュニケーション能力が必要。口先のうまさが活かせる。

 弁護士……営業と同様。さらに自信と人を欺く能力が活かされる。

 警察官……自分の掲げる「正義」にとことん忠実になれる人間が向いている。

 料理人……厨房がカオスな状態でも集中力を以て仕事に臨める。


 そしてこれらの仕事を紹介した後に、先生はこうも告げました。


「何になるかは、選べる」


 泣きましたね。多分、人生で初めて「悲しい」以外の感情で泣いた。けれど、同時に「ここで弱いところを見せると付け入られる」という心理も働いたので、堪えました。顔を伏せて笑顔を浮かべて……笑顔が表情認知を曇らせることは経験上分かっていました……感情が読み取られないよう努めた。まぁ、心理学教授の前では無駄だったのでしょうけどね。


 そういうわけで、僕の信条です。


 何になるかは選べる。僕は確かに犯罪者予備軍なのかもしれないけれど、犯罪者にはならない。そう決めた。


 さらに僕には妻もできた。高校時代からの親友もいた。これらが大事な存在だということに、幸いにも二十代前半で気づけた。もしかしたら遅かったのかもしれないけど、取り返しがつかないわけじゃない。


 先述しましたが、僕は「共感力が低く」「冷淡で」「口先ばかりで」、多分、社会的には省かれるべき存在です。パブリック・エネミーって言うとかっこいいな。好きですよ、そういう言葉。


 でも、そんな特徴を、何に活かすか、何になるかは、僕が選べる。選んでいい。


 長くなりましたね。自分語りが大好きなんです。ほらね、ナルシストっぽい。


 かわいいでしょう? 「僕はサイコパスだ」って言ってる二十代の若者。すごくかわいいな、と僕は思います。僕がそんなことを言っている他人を見たら愛でたくなりますもんね。何て愛い奴。観察対象としては最高。いい研究ができそう。


 まぁ、そんなことはさておき。


 繰り返しになりますが、僕は。


 人を大切にできる人間になることを選びました。

 人を思いやれる人間になることを選びました。

 優しい人間になることを選びました。

 少なくとも自分の手の届く範囲の人間は守れる人間になることを選びました。

 人を好きになることを選びました。まだ動物は、難しいけど。


 逆に言うと、選ばないとこれらのことができない人間なんですけどね。


 さてさて、終わりにしましょうかね。長いことお付き合いいただきありがとうございました。ね、ちゃんとお礼が言えるでしょう。賢いでしょう。


 それでは皆様。

 よい人生を。

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ソーキョク闘病記 飯田太朗 @taroIda

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