無責任に希望は書けないけど何がほんとうのことかは書けるよ
naka-motoo
ほんとうのことは全員が分かってるけど都合が悪いから棚上げし続けてるだけ
母親が子供に向かって「何ノロノロしてんの!」って叱ってる。
その母親のアカウントに向かって年齢が分からないインフルエンサーが『プロとしてマーケットに書籍を流通させている自分ですら配慮を尽くして発言しているのにアマチュアが人生訓のようなことを言うのはなんなんでしょうね』と説教してる。
そのインフルエンサーは本当は神になりたいので自分がフォローしている数を極力ゼロに近づけ、あくまでも自分はフォローされる側だと細工する。
そのインフルエンサーに時として経典のような立ち位置で使われるバズっているアーティストは、また別の芸術性の高いアーティストを『リスペクトしてます』と自らの器の大きさを匂わせつつ自分の格付けを上げるためのアイテムとして利用する。
芸術性の高いアーティストの中にはホンキで神への畏敬を持つものもいるが、多くは自分の成功と芸術的欲求のみを満たすアイテムとして神を都合よく利用する。
神は
ほんとうは神は
努力を続けている。
神と人間の差が永遠に埋まらないのは神自身が不断に努力を続けているからであって、これは極めて重要なポイントなのだが、その神の努力の志向性は『正』に向かっての努力である。
自分の欲求ではなく、既にもう決まっている『正』を実現し、人間の長久を守り給うための努力である。
けれどもそれを知らない人間は、あるいは知っているけれども自己の哲学や信念に対する説明がつかなくなってしまうことを悟っている人間は、添え物のようにして神を利用する。
都合のよい自分の世界観程度のものを神の後ろ盾を得ているように見せかけながら、自分自身が神にならんとしている。
「三田くん」
「なに?長坂さん」
「ノネちゃんの3回忌だよ」
「うん。そうだね」
「ノネちゃんは天使だったよね」
「そうだね」
片腕を永遠に失った、小学校に通わない少女だったノネをふたりは悼んだ。
「分骨されてたんだね」
「長坂さん。そうじゃないと僕らがノネちゃんのお墓まで行くのはさすがにご両親も望まないかもしれないから」
わたしたちが来たのはノネちゃんの家の宗派のお寺。
都内でも門徒の数が一番多くて、物理的に墓を持たないことを都合良く一般化しようとしている世のニーズに合わせたのか、こういうやり方をして死んだ人が極楽往生できるのかどうかという問題を排除してしまって死んだ人と自分のふたりだけの関係性で弔う人たちが増えていて・・・・・・
でも、ノネちゃんのご両親がノネちゃんのかわいらしい小さな身体をこのお寺に分骨して、小さなロッカールームのような祭壇に祭ったのはそういう理由からじゃない。
ノネちゃんのお父さんの家の総本家は地方にあって分家の親族もその敷地に墓を建ててあるのだけれど、ノネちゃんだけでなく、他の先祖も含めて東京で供養するために止むを得ずこの祭壇への分骨をお寺に頼んだんだ。
だから、祭壇にノネちゃんの遺影があるわけでもなく、わたしと三田くんは、ノネちゃんの家の先祖代々にも手を合わせることになる。
「三田くん」
「なに」
「わたしたち、成人したね」
「うん」
「わたし、どのお墓に入ればいいと思う?」
「今決めることかな」
「三田くん。わたしはノネちゃんに極楽に行っていてもらいたいんだよ。行ってるって思う?」
「・・・・・・わからない」
「ノネちゃんの死んだ原因は直接には肝臓疾患だったけど、その大元の原因はノネちゃんがホームから電車に飛び込んで片腕を失くした時の・・・・・線路への落下と電車に轢かれた衝撃による内蔵へのダメージ」
「そうだね」
「自殺未遂してから2年後に死んだノネちゃんは、それって自殺で死んだことになるの?」
「長坂さん・・・・」
「いじめで自殺未遂して、わたしたちと出逢って一緒にいじめを根絶するための学術研究をやる未来を思い描いて希望を持っていたノネちゃんが、最期の死因は結局自殺っていうことにされて、『いじめが辛くて自殺した奴は弱くて自ら死を選んだんだから地獄に堕ちて当然だ』なんてしたり顔でSNSでつぶやいてるひとたちに負けて、ノネちゃんは地獄に堕ちるの!?」
「・・・・・・・」
「三田くん!何か言って!」
「長坂さん。僕も考えてるんだ。ノネちゃんが地獄に堕ちているはずないっていうその挙証となるものを考えてるんだ」
ノネの通夜の際、同席していた彼女のクラスメートたちが泣いているのを見て、「今更泣くなよ」と吐き捨てた三田である。
なんとしてもノネを救いたかった。
「三田くん!じゃあ、ノネちゃんをいじめた子たちは!?地獄に堕ちるの!?確実に地獄に堕ちるんだって誰か約束して!?」
クラシックが流れるお寺の祭壇の部屋でわたしは錯乱したけれども、三田くんはご住職にわたしの見苦しさには一切触れない物言いでわたしの代わりに謝ってくれて、けれどもわたしはお寺を出ても泣いていた。
「長坂さん。甘いもの食べよう」
三田くんはそう言っておぜんざいが美味しい神保町の古い喫茶店にわたしを連れて行ってくれた。
おぜんざいを食べて、もう一杯お代わりをねだって食べてわたしは泣き止んだ。
「三田くん」
「なに」
「甘すぎて頭が痛いの・・・・・」
ぷふっ、て笑う三田くん。
わたしも笑う。
「どうすればいい?」
「砂糖の権化みたいな甘さだからね。塩昆布、あるよ」
もしかしてだけど。
塩昆布って、ノネちゃんが死んで流した涙のしょっぱさと同じじゃないよね?
無責任に希望は書けないけど何がほんとうのことかは書けるよ naka-motoo @naka-motoo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます