第7話
魔女の後をついていくと、森の開かれた場所に着く。
そこには、魔方陣が書かれており、中央で青い炎が激しく燃え盛っている。
「特別製の炎でね、あそこに全ての素材をぶちこめば、あなたの愛しの彼女が戻ってくるわよ?」
魔女の軽口にも答えられない。
私の足はそのまま、炎の方へと近付いていく。
「陣には一歩も踏み込まないでね、効力が切れちゃうから」
それだけは耳に入って、寸前で止まった。
魔女も傍に来て、陣の外に置いていた、薄汚れた袋を炎に投げ込んでいく。
「さ、最後にそれも投げて。それで終わりだから」
「……」
「ん? ショコラに情でもわいたの?」
「……いや、重かったから」
それだけ言って、担いでいた少女を、炎の中に投げた。
「……っ」
あの日のエクレアの姿が、脳裏をちらつく。
仕方ない、仕方ないんだ。
私はエクレアに従う者、ショコラのことを──選ぶことはできない。
私は、ずっと、この時を、
「待っていたのよ、エクレアちゃん!」
隣の魔女が叫んだ。
「……はっ?」
思わず隣を見れば、魔女は、世にも醜悪な笑みを浮かべ、じっと炎を見ている。
「甦りの聖女なんて、面白すぎじゃない? しかも一回もミスらないの、すごいすごい! その話聞いてね、私、私さ……そんなすごい聖女を魔女にしたらどうなるか、やってみたくなって」
「……なにを」
魔女は止まらない。
「今までもただの聖女を魔女にさせたことがあったんだけど、奇跡の聖女をそうしたことはなくってね、やりたいなーって思ってるタイミングでエクレアちゃんが本部に送られたから、じゃあやろうって。それで教会の奴らに紛れ込んで、次はあの子に何してもらおうかって話し合いしてる所に、火炙りにしたらって言って、あの場を設けてもらってー。ふふ。本当はあの時に儀式をしたかったけど、手足切り落とされたのビックリしてたら赤ん坊になっちゃったから、ちょっと作戦練り直さなきゃって、手足は回収して。あーもーサイアク」
でも、と更に笑みを深くし、
「それも今日で巻き返せる。エクレアちゃんの復活に必要な素材は全て、悪魔から貰い受けた青い炎にぶちこんだ。後は、私が呪文を口にすれば、彼女は──」
「させない」
素早く魔女の首を掴み、握り潰す。
魔女は醜悪な声を上げ、地面に倒れていった。
「……お前の、せいで……」
いや、自分のせいでもある。
あの日、素早く動けていたなら……!
魔方陣に足を踏み入れ、エクレアの元に向かう。
すると、炎の色が青から橙に変わった。
悪魔の力が失せたのか。
「エクレア!」
彼女の名前を力いっぱい叫ぶ。
「──ヴァレン?」
懐かしい声が、耳に届く。
自然と目からは、涙が流れた。
「エク………………っ!」
「ヴァレン、全然、変わらないわね」
炎の中から現れた、大切な、私の聖女。
肌は一切、焼け爛れていない。
ただ、その姿は……。
死人と見紛う肌の青白さ。
白髪ではあるが、真ん中から下は黒く染まり、
赤かった双眸は金色に輝いている。
清らかさなど、どこにもない。
禍々しさだけが、その女にはあった。
「……残念でした」
足元から魔女の声がした。
それが、最期に聴く言葉になった。
◆◆◆
温もりと寒さを同時に感じて、目を覚ます。
私は空の上にいた。
「おはよう、エクレアちゃん」
前方から声がする。
視線を向けると、黒い服の女性がそこにいる。
どうやら私は彼女と箒にまたがって、空を飛んでるらしい。
「よく眠れた?」
「……取り敢えずは」
「そっか! じゃあさ、私のこと覚えてる?」
「……?」
首を傾げながら、答えた。
「カトレア様ですよね?」
「そうそう! ちなみに、ヴァレンって名前に聞き覚えは?」
彼女が何を言っているのか分からなくて、首を横に振ると、カトレア様はやけに嬉しそうに「効いてる効いてる」なんて言っていた。
何なんだろう……でも、まあ、どうでもいいか。
私はカトレア様の弟子だ、彼女の望むことをするまで。
「どこに向かわれてるので?」
「特に当てはないよ。適当な所に降りて、君がどれだけできるか確認しようかなって」
「そうですか。よろしくお願いします」
彼女の背中にもたれ掛かる。
そこはとても温かい。……なのに、寒さを感じる。
そして無性に、胸が痛くて仕方なかった。
甦りの聖女 黒本聖南 @black_book
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