たとえここが地獄の底でも、燃える命が灯りとなるなら。

最初に言います。二回読みました。
もう一度言います。二回読みました。

それくらい心情描写が緻密で、登場人物それぞれの事情を理解した上で読むと物語の厚みがハンパではない――と主張するためにもう一度言いますが、たいへん味わい深く二回、読ませていただきました。


本作のヒロインであり作品のタイトルでもある巫女は、明るく柔らかな物腰が魅力的です。
この女の子(十六歳?)が、どうしたわけか偶然拾った死にかけのアラサー男に「あなたが好きです。結婚してください」とのたまった。初対面なのに。
当然ながら男は困惑しつつ、怪我人ゆえやむを得ずしばらく一緒に過ごすことになる……。


この一見まったく意味不明な導入の裏には、彼女と彼のそれぞれに抱えた事情があるのです。


レビューの題名で「地獄の底」とか言ってしまいましたが、この作品は非常に重い世界観を持っています。
瘴気に包まれた世界、その淀みの象徴のような「獣憑」と呼ばれる存在。まるで長雨の続く日々のような、じっとりと湿った重苦しさが作品全体を包んでいるようです。
それもそのはず、土台となる地面の下には瘴気の根源たる邪神が構えているのですから。

しかし対するキャラクターたちの言動は明るく楽しげで、とくに前半部分はほのぼのとした生活感すら漂います。
とくに作者の高い表現力がいかんなく発揮された、巫女の力が具現化されるシーンは一見の価値あり。一幅の絵画のような美しい光景が、まるで目の前で実際に起きているかのようでした。

明るい生活パートから一転して、終盤のどろりとした展開はまるで、花火が消えたあとの夜の闇。
次々に明らかになる事実、巫女の宿命と、怒涛の展開に呑み込まれたらもう黙って最後まで読み切るしかありません。


そして、ご安心ください。世界観こそ絶望的に重いし、暗いし、夜は果てしなく長いけれども、いつか夜明けが来る――明日があることを、読者は信じてもいいのです。
ていうか一言で言うと「頼むから末永く爆発してくれ」。現場からは以上です。



最後に作者さまへ。
少々不真面目なレビューとなりましたが、書き手が本作品に大変感銘を受けたことだけはまごうかたなき事実です。
素敵な作品をありがとうございました。

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