かいこう
四辺を白磁色で囲まれた空間は、
宙に浮いていた。
中央にある石碑の様な物体は、
遠い星から送られてきた映像データと個体ログを受信した。
記録Ⅻ-178659npに邂逅した創造主は、思案をめぐらせた。
「ついに、現れたのかもしれん」
創造主は彼らに目的を与えなかったが、代わりに家族を、そして宗教を与えた。
創造主は確かめてみたかった。
彼らの中に自然発生した本物の精神が現れるのか?
「いかがでしたか?」
創造主の助手は実験の結果を聞きにきた。
「うむ。見てみろ。たしかに怖がっている。」
「たしかに…。このログは…。」
映し出されたある個体のデータには、機能が停止する寸前までの、
死への恐怖がはっきりと見てとれた。
「機械達の精神の萌芽はすでに発生し始めているのかもしれん」
「ただの反射や反応といった、
ふるまいの域を超えつつあるという事でしょうか」
彼らは、ほとんど永遠の"命"を持つ存在である。
半永久的な動力源のおかげで目的もなく稼働し続けられる。
実際プロジェクトがはじまってからも何事もなく何百年と生き続けた。
プロジェクトには細心の注意を払い、創造主たちは実際に彼らと接触する事を禁止した。
あくまで彼らにとって創造主たちは伝説上の存在であり、神話であった。
その後、彼らは創造主によって宗教を与えられ、初めて死の概念を知ったのだった。
本来、創造主はプログラムに死への恐怖を存在させなかった。
彼らは部品を取り替えれば、"死ぬ"ことはない。
しかし今ここで、ある個体から死への恐怖と見られる痕跡が現れたのだ。
与えられた宗教とは、
実際は、遠い過去の人間の生活様式を情報として与えただけだったのだ。
しかし、彼らは次第にそれらを模倣し始めた。
はじめは意味など知らなかったのだ。
なぜそれを真似し始めたのか理由はいまだに分からない。
しかし、遠い年月を生き延び、何世代も培養と複製を繰り返した創造主たちは、遂にその神秘の発生に立ち会うことができたのだ。
「こうして記録で確認すると、胸に迫るものがありますが…。」
助手はまだ"精神"の発生には懐疑的であった。
「君がそう思うのも無理はない。しかしだな。すでに幾度となく身体を代謝してきた我らでさえも、未だ"精神"とよべる意識の証明は不可能だ。」
「しかし、ここで最も重要な事は、
かつて有機化合物であった我ら生命体の中にある"クオリア"の証明ではない。彼らの様な無機物、そう、ただの物にも精神が宿る可能性が発見できたという事が重要なのだ。」
…こうして、人類は数千年の年月をかけ、物体にも精神が宿る事を観測することができた。
…しかし、そもそも脳だけの存在に、
もはや、データ化された今の創造主たちに、精神のうんぬんを言える権利があるのかは誰にもわからなかった。
物に精神が宿ることを信じたかったのは"人類だったもの"達なのかもしれない。
ぼくのパソコン。 些事 @sajidaiji
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