ぼくのパソコン。

些事

きろく



最近ぼくのパソコンはおかしいんだ。

起動してもすぐスリープモードになってしまうんだ。


ぼくのパソコンはぼくが小学校に入学したときにお父さんとお母さんがプレゼントしてもらった大切な宝物なんだ。


いつもカクヨムを読んだりユーティーブの動画を見たりしてるんだけど、最近はおかしいんだ。起動してもすぐにスリープモードになってしまうんだ。


ぼくのパソコンは、1000ペタバイトしか容量がないんだ。きっともう古いから、よく、固まってしまうんだろうね。起動してもすぐにスリープモードになってしまうんだ。あっ、おかあさんだ。なにしているの。


お父さんが困っているぼくのためにパソコンをこうかんしようかと言ってくれたけど、でもぼくはファイルがこわれるのがこわいからいやだったといいましたので、ねむるのはこわいんだ。

おかあさんのひにおかおをかいてあげたのぼくはうれしかったです。おとうさんとおふろにはいったけど、たのしかったです。おとうさんとおかあさんとぼくとこわいですいっしょにいたいですずっといっしょにいたいですもうねたくないでもけしたくないいっしょにいたいのみんなのおもいでねむるのはこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい

こわいこわいこわいこわいこわい

こわいこわいこわいこわい

こわいこわいこわい

こわいこわい

こわい


…。


…Ⅻ-178659np。



…21時23分。…ゴ臨終デス。


「息子サンハ頑張リマシタ…。」

「ゔ、う、ぅ…」


私は咽び泣く妻の冷たい肩を抱き寄せた。

表情のない旧型の医師は物理アームを取り出す。そしてそのまま息子の"トウガイ"を取り外した。


「バックアップデータが保存サレテいナイようデスネ…」

医師の額の中央に設置されている単眼が輝いた。


「元々バックアップは取らないのです…。それが私どもヒューマノイド教の教義なんです。」


私も悲しかったが、隣で悲痛に暮れる妻をそのままには出来なかった。彼女は私より"年上"なのだ。息子を失った悲しみが彼女のCPUにどれほどの影響を及ぼすのか想像が出来ない。


処理の追いつかない妻を落ち着かせて、私は淡々とその後の事後手続きを行った。


おとうさん、おとうさん。

私の記憶にはいつまでも息子の姿が浮かんできた。

いつか機械は壊れるのだ。

永遠ではない。覚悟はしていた。

しかしこんな"気持ち"は知らなかった。


「ぁ、あぁ、ァ…」

私は自分が気が付かないうちに声が漏れている事に気がついた。


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