第4話
「ううん……ここは……」
隆が目を覚ますと、そこは全ての壁が真っ白な四角い部屋であり、隆は十字架に磔にされて厳重に拘束されていた。
変身は解けていないが、あまりに厳重に拘束されているために抜け出すことはできそうにない。
すると、壁の一部が自動ドアのように開き、部屋に何者かが入ってくる。
部屋に入ってきたのは、ダークネスカンパニーのボスである髭を蓄えた眼帯の男、『ティラノ大帝』と、セクシーな黒いボンテージを着て、顔にビジュアル系バンドのようなメイクをした加藤であった。
「ティラノ大帝!? 加藤さん、これはどういうことだ!?」
加藤は妖艶な笑みを浮かべると、隆の問いに答える。
「言ったでしょう? 私はおじさんが好きだって」
「だからどうした!?」
「だーかーらー……」
加藤はティラノ大帝に腕を絡める。
「こういう事なのよ。私はダークネスカンパニーの幹部、『ボンテージ加藤』だったってわけ」
「売れないピン芸人みたいな名前だな!」
「お黙り!」
加藤の鞭が隆を打つ。
「ボスの指示であなたを確実に倒す機会を伺っていたけど、案外呆気なかったわね」
そう、加藤は実はダークネスカンパニーより送り込まれた工作員であり、先程ミルキーランドに現れた美空は加藤の変装だったのだ。
すると、これまで黙り込んでいたティラノ大帝が口を開く。
「サンシャインよ、よくもこれまで我々に歯向かってくれたな」
「できるなら俺だって一般人でいたかったよ!」
確かに隆はこれまで自らの意思で戦ってきた。
しかし、それは他にサンシャインになれる者がいなかったからだ。
もし自分がサンシャインにならなければ多くの人々に、いや、いずれ自分の家族にも危害が及ぶかもしれないと思ったからこそ、隆はサンシャインとして戦い続けてきたのだ。
それだけではない。
隆は頼れる父親でいたかった。
たとえ不本意であろうとも、家族に自分のやっている事を誇れる父親でいたかったのだ。
「フン、まぁいい。これからお前は処刑される」
ティラノ大帝が指を鳴らすと、マシンガンを持った兵隊達が一斉に部屋に入ってくる。
「今この部屋の様子は日本中に生中継されている。これからお前は全国民に死ぬ姿を晒し、絶望を与えるのだ!」
「なんだと!?」
隆の正面にある壁がモニターとなり、隆の姿が映し出された。
「さて、最後に言い残す事はあるか? Mr.サンシャインよ」
いくら変身しているとはいえ、抵抗できない状態で複数のマシンガンから銃弾を撃ち込まれれば、隆は間違いなく生きてはいられないだろう。
隆はいつか自分が死ぬ日が来るかもしれないと覚悟はしていたが、まさかこのような形で終わりを迎えるとは思っていなかった。
隆は観念したかのように変身を解く。
するとモニターにはMr.サンシャインではなく、横山隆の姿が映し出された。
「おい、できればMr.サンシャインの姿で死んで欲しいのだが……」
「うるせぇ!!」
隆はティラノ大帝を睨み付けて叫んだ。
「今の俺はMr.サンシャインじゃない。俺は食品メーカー勤務のしがないサラリーマンで、最近妻とはご無沙汰の夫で、三児の父親の『横山隆』だ!!」
隆はモニターを真っ直ぐに見つめる。
「海斗、美空、陸、そして美智子。俺はこれから処刑される。不甲斐ない父親でごめんな。でも、最後に言っておきたい事がある」
そう言って隆は深く息を吸い、
「俺はあんまりいい夫でも父親でもなかったかもしれない。うざったくて、臭くて、しょうもない男だったかもしれない。でも……でもな。お前達の事を誰よりも————」
笑った。
「————大切に思っている」
それは、死を覚悟した隆の最後の言葉であり、家族へのメッセージだった。
それを伝えるために、隆はMr.サンシャインではなく、横山隆として死ぬ事を選んだのだ。
「つまらん男だ。さっさと殺せ」
ティラノ大帝が手を挙げると、戦闘員達が一斉にマシンガンを構える。
そして今にも銃弾が発射されようとしたその時だ————
ドサッ
一人の戦闘員が倒れ、その場にいた全員がそちらを見た。
するとそこには、長く黒いコートを着て、指抜きグローブをはめた少年が立っていた。
「だ、誰だ貴様は!?」
ティラノ大帝の問いに少年は答える。
「俺は闇の能力者集団『シャドウゲート』と戦う者。コードネーム・ブラッディナイト。またの名を————横山海斗」
「か、海斗!?」
「助太刀するぜ、Mr.サンシャイン。いや、親父」
そう、謎の少年は隆の息子である海斗だったのだ。
「プリズムチェーン!!」
すると今度は、どこからか光の鎖が飛んできて、戦闘員達を拘束した。
一同が鎖の飛んできた方を見ると、そこにはフリフリでカラフルで、布面積は少ないけれども大事な所はしっかりとガードされている服を着た少女がいた。
「今度は誰だ!?」
ティラノ大帝の問いに、少女は答える。
「悪夢の化身『ナイトメアーズ』と戦うマジカルアイドル・ソラリン、華麗に参上☆ またの名を————横山美空!」
「み、美空!?」
「助けに来たよ、お父さん!」
またしても隆を助けに来たのは、隆の娘である美空であった。
更に、隆の体が瞬時にテレポートして、拘束が解かれる。
「もう何が起こっとるんだ!?」
隆の側にいつの間にか立っていたのは、黄色い全身タイツを着た、やや年増ながらナイスバディの女性であった。
「悪のエスパーを取り締まる正義のエスパー、サイコレディ登場! またの名を————横山美智子! 旧姓は野島美智子!」
「み、美智子まで!?」
「あなたの啖呵、カッコ良かったわよ」
そう言って美智子は隆にウインクをした。
「海斗に美空に美智子……という事はまさか……」
ドガッシャァァァアン!!!!
突然部屋の天井が破壊され、そこから巨大ロボットが顔を覗かせる。
そのロボットは、宇宙ヤクザ『ギャングスター』と戦う正義のロボ『ポリスダー』であった。
「お父さーん!」
「その声は陸!? 一体どうなってるんだ!?」
混乱する隆の元に、家族が集う。
「まぁまぁ、あなた」
「まずはやる事があるだろ」
「あの悪い奴らをやっつけよう☆」
「僕だけで十分だけどね」
隆は頷くと、空に手をかざして叫んだ。
「チェンジ! サンシャイン!」
その日、ダークネスカンパニーはあっけなく倒産した。
☆
陸の操縦するロボットで家へと帰る途中、隆は美智子達に聞いた。
「お前達、いつからヒーローやってるんだ? というか、何で俺に黙ってたんだ?」
「だって、あなたに言うと『危ないからやめろ』って言うと思ったんだもの」
美智子の言葉に子供達はうんうんと頷く。
「もしかして、俺以外はみんなお互いの事知ってたのか!?」
隆を除く一同は全員頷く。
「言ってくれよなぁ……」
仲間外れにされていた寂しさに、隆はさめざめと泣いた。
「まぁまぁ、細かい事はいいじゃないの」
「なんか最近冷たくしてごめんね。忙しくてイライラしててさ……」
「俺も悪かったよ。闇の連中と戦ってるとつい口が悪くなっちまって」
「僕もずっとポリスダーの操縦の練習してたんだ。ねぇ、悪の組織が全部壊滅したら、今度こそみんなでミルキーランド行こうよ!」
「「いいねー!」」
こうして、横山家は絆を取り戻し、家族揃って遊園地に行くために、悪の組織と戦い続けるのであった。
〜完〜
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