第3話
それから数日経った金曜日の夜。
珍しく早めに帰宅した隆は、家族と共に夕飯を食べていた。
ちなみに夕飯のメニューはなぜかシシカバブとナシゴレンに味噌汁という組み合わせである。
「陸、最近学校はどうだ?」
「別に何もないよ……。普通」
「そ、そうか。海斗はどうだ?」
「特に何もねぇよ」
「そ、そうか。何も問題が無いのはいい事だよな、うん」
特にトラブルが無いに越した事はないが、その食卓は鎮まりかえっており、隆が思い描く家族団欒とは程遠いものである。
黙々と食事が進む中、隆は早くも切り札を切る事にした。
隆は席を立つと、部屋にある鞄からチケット入れを持ってくる。
「なぁ、明日か明後日の休みに家族でミルキーランドに行かないか?」
「「ミルキーランド?」」
それは、隆が数年振りに家族全員から注目された瞬間であった。
ミルキーランドとは、隆の家から車で一時間程の所にある遊園地の名称であり、隆は子供達がまだ幼かった頃によくせがまれて連れて行ったのであった。
「会社の上司からな、チケットをちょうど五枚貰ったんだ。せっかくだから久しぶりに家族みんなで行かないか?」
チケットを上司から貰ったというのは嘘であり、実はMr.サンシャインとしての褒賞の一部で隆が自ら購入したものである。
子供達が好きだった遊園地。
そこへ連れて行けばまた家族の絆を、父親としての威厳を取り戻せるのではないかと隆は考えたのだ。
しかし————
「俺はパス」
最初にそう言ったのは海斗であった。
「何でだ!? お前、あそこのジェットコースターが好きだったじゃないか」
「ガキの頃の話だろ。この歳で家族で遊園地なんてダセェよ」
「そんな事ないだろ! なぁ美空?」
隆は美空に同意を求める。
「私も行かない。友達と約束あるから」
しかし、美空もまた隆の期待を裏切るのであった。
「ま、まさかボーイフレンドか!?」
「お父さんには関係ないでしょ」
そして陸も。
「僕も遊園地はいいかな」
「何か予定でもあるのか……?」
「ううん。ゲームしたいから」
失意に沈む隆に、美智子が追い討ちをかける。
「あらぁ、私も英会話教室の人達と旅行に行くのよ」
「お、お前もかブルータス……」
「ごめんなさいね、シーザー」
チケットを握り締めて落ち込む隆を尻目に家族は食事を進め、やがて食べ終えると各々の部屋へと帰っていった。
隆は虚しくて、悔しかった。
いつまでも『大好きなお父さん』でいられない自分が。
☆
それから数日後、隆は仕事帰りにJガーディアンズの秘密基地を訪れていた。
「へぇー、そんな事があったんですか」
「というわけで、このチケットは加藤さんにあげるよ。友達とでも行ってきてくれ」
そう言って隆は加藤に無用の長物となったチケットを渡した。
「えー! 良いんですか!? ちょうど行きたかったんですよね! 良かったら横山さんも行きませんか?」
「いや、俺はいいよ……」
「私は横山さんと二人で行きたいなぁ」
加藤は隆の胸元を指でツンツンとつつく。
「だ、だから俺には嫁と子供がいるんだって! それに、遊園地って気分じゃないしな……」
先日の一件のはまだ隆の尾を引いていた。
「そんなに落ち込む事ですかねぇ?」
「加藤さんも親になればわかるよ。いや、女親はそうでもないのかな……」
その時、基地内に突然警報が鳴り響いた。
ハッとした加藤はモニターに向かい、素早くキーボードを叩く。
「横山さん! 怪人出現です!」
「場所は!?」
「こ、これは……ミルキーランドです!!」
「なんだって!?」
隆はその場で変身し、秘密基地を飛び出した。
☆
「クックック、人間共の大好きな遊園地を破壊し尽くしてやるのだ!」
サンシャインに変身した隆がミルキーランドに到着すると、そこは二足歩行をするクジャクのような姿をした怪人と戦闘員達により、混乱の坩堝と化していた。
「そこまでだ! ダークネスカンパニー!」
「現れたかMr.サンシャイン! 今日こそ息の根を止めてくれるわ!」
現れたサンシャインにいつものように戦闘員達が群がり、襲い掛かる。
しかしサンシャインはいつも以上の勢いとパワーで戦闘員達を蹴散らしてゆく。
サンシャインは————隆は怒っていた。
そこは隆にとって思い出の場所であったから。
(海斗が好きだったジェットコースターを……)
サンシャインのパンチが戦闘員に炸裂する。
(美空が好きだったコーヒーカップを……)
サンシャインのキックで戦闘員が宙を舞う。
(陸がなぜか好きだったはめ込み看板を……)
サンシャインの剣で戦闘員が両断される。
(美智子と乗ったメリーゴーランドを壊されてたまるか!!)
そしてサンシャインは早々に必殺技であるサンシャインスパークを繰り出すと、
「なっ!? お、俺はクジャ……ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
まだ名乗りもしていないクジャクの怪人を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「はあ……はあ……」
いつもより激しく戦闘をしたせいで、隆の関節はいつも以上に悲鳴を上げている。
それでも隆は思い出の場所を守れたことが嬉しくて、誇らしかった。
すると、息を整えている隆に駆け寄ってくる人物がいた。
「お父さん!!」
それは、ここにいるはずのない美空であった。
「美空!? なぜここに!?」
驚く隆の胸に美空が飛び込んでくる。
その時、隆は胸に小さな痛みを感じた。
そして隆が視線を下げると、美空の手には注射器が握られていた。
「ごめんね、横山さん……」
たかしが意識を失う前に聞こえた声は、今頃秘密基地にいるはずの加藤の声だった。
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